テレワークが変えた暮らし[4]愛犬のために伊豆高原へ移住。40代で仕事を…

テレワークが変えた暮らし(〇)  40代でも仕事を変えずに愛犬のために移住が実現

(写真撮影/片山貴博)

伊豆高原への移住とともに、新幹線通勤&週に1~2度のテレワークを同時に始めたOさん(45歳)。
職場を変えずに、住まいを変えることは、案外できること。暮らしは確実に豊かになったと実感するOさんに、移住の経緯、リモートワークの実情、伊豆高原の住み心地などお話を伺った。

お気に入りの場所、伊豆高原で見つけた「森の中の小さな家」

今年9月、妻と愛犬とともに伊豆高原に移住したOさん。それまでに月に2、3度日帰りで伊豆や下田方面に遊びに来ていた。目的は、愛犬のグラム君のため。「3時間車を運転して、静岡県下田市の爪木崎の遊歩道まで遊びに行っていました。1時間ほど散歩して、その帰りに美味しいもの食べて、温泉に入ってというのが休日の定番ルート。何度も足を運ぶうちに、このあたりで暮らしてみたいなぁと思うようになったんです」。
そこで、よい土地があれば買って家を建てようと考え、土地を探すことに。条件は、東京都内から2時間以内の立地で、海が見える、開放的な高台の土地。

釣り場でもある近くの漁港にて。海と崖がそびえる景観は、それだけで非日常の風景だ (写真撮影/片山貴博)

釣り場でもある近くの漁港にて。海と崖がそびえる景観は、それだけで非日常の風景だ
(写真撮影/片山貴博)

よく足を運んだ爪木崎の須崎遊歩道。海沿いの景観が美しい(写真撮影/本人)

よく足を運んだ爪木崎の須崎遊歩道。海沿いの景観が美しい(写真撮影/本人)

「2年ほど探していたでしょうか。でも、もともと温暖な気候で別荘地や移住者に人気のエリアなので、なかなか見つからなかったんです。もしかしたら、条件の良い土地には、すでにもう家が建っているのかもと考え、中古の一戸建ても候補に入れました」
その中で見つけたのが、300坪の広大な丘に建つデザイナーズ別荘。1階がコンクリート打ち放し、2階はログハウス調の外観が印象的だ。「高台なので、視界が抜けていて、開放的なのが気に入りました。海も遠くにですけど見えるんですよ」

もともとは有名建築家が軽井沢で建てた別邸のレプリカ。お風呂に温泉をひいているのもこの土地ならでは (写真撮影/片山貴博)

もともとは有名建築家が軽井沢で建てた別邸のレプリカ。お風呂に温泉をひいているのもこの土地ならでは (写真撮影/片山貴博)

エントランス前のウッドテッキからの眺め。「階段の上り下りは正直大変ですけど、空が近く感じる開放感が何より贅沢」(写真撮影/片山貴博)

エントランス前のウッドテッキからの眺め。「階段の上り下りは正直大変ですけど、空が近く感じる開放感が何より贅沢」(写真撮影/片山貴博)

常に犬とともに暮らしていたOさん。グラム君は3代目の愛犬 (写真撮影/片山貴博)

常に犬とともに暮らしていたOさん。グラム君は3代目の愛犬 (写真撮影/片山貴博)

英国デザインの『シェイカーキッチン』にリフォーム。ホーローのシンクや、伝統的なデザインなどは、妻のこだわり(写真撮影/本人)

英国デザインの『シェイカーキッチン』にリフォーム。ホーローのシンクや、伝統的なデザインなどは、妻のこだわり(写真撮影/本人)

週に1、2日はテレワーク。緑の借景を望める特等席が仕事場

伊豆高原の家と出合い、川崎市の住まいは売却。移住を決めた。ただし、職場を変えるつもりはなかったので、上司にテレワークを申請。現在は週に1、2日は在宅で仕事をしている。「職種はIT系で、もともとテレワークの制度はある会社でした。というか、この制度がなければ移住はしなかったかもしれません。テレワークをするのは主に金曜日か月曜日。なるべく社外の打ち合わせなどは入れず、火曜日から木曜日にクライアントとのアポイントを集中させるようにしました。社内の打ち合わせなどは電話会議で十分です。移住後は、スケジュールを効率よく組むように意識するようになりました」
テレワークをするときは、主にリビングの一角、緑の借景が望める特等席で。心地いい空間で仕事の効率も高まる。「ただし電話のときだけは、寝室か車に閉じこもってしています。以前、海外オフィスと電話していたときに、グラムが乱入して大変だったんです(笑)」

テレワークは特等席で。通勤がない分、8時台から仕事を開始できる(写真撮影/片山貴博)

テレワークは特等席で。通勤がない分、8時台から仕事を開始できる(写真撮影/片山貴博)

往復4時間の通勤は貴重な仕事時間に

週に1日から2日はテレワークだが、それ以外は新幹線通勤になる。最寄駅の伊豆急行線伊豆高原駅まで車で3分程度、熱海駅で乗り換え、新幹線で品川駅へ。所要時間は約2時間だ。「大変でしょう、ってよく聞かれるんですけど、これが全然大変じゃないんですよ(笑)。伊豆高原駅は始発もあるので座って通勤できますし、新幹線と合わせて約2時間はパソコンを広げて仕事をしています。メールをチェックしたり、返信したり、資料を確認したり。帰りもそう。いわば往復4時間がビジネスタイムになっているようなもの。退社時間は早くなりましたが、その分車内で仕事をしているので、案外、業務時間は変わらないかもしれません」

伊豆急行線の車内。窓からの眺望を楽しみながら仕事ができる。「ただ、最近は帰りの新幹線が座れないことがあり、それはけっこう痛手です」(画像提供/本人)

伊豆急行線の車内。窓からの眺望を楽しみながら仕事ができる。「ただ、最近は帰りの新幹線が座れないことがあり、それはけっこう痛手です」(画像提供/本人)

釣り、キャンプ、SUP……趣味を気軽に満喫できる伊豆暮らし

「仕事面で言えば、案外、移住前と移住後でさほど業務自体は変わらないと思います」というOさん。だが、休日の過ごし方は変わった。
まず愛犬との暮らし。「海が近く、山も近く、お散歩する場所には困りません。愛犬は体を動かすのが大好きなので、思う存分走り回れてうれしそうです。それに、伊豆高原界隈って、別名、犬高原と言われているほど、犬フレンドリーな街。テラス席はもちろんのこと、犬と一緒に外食できるレストランが多く、気兼ねせず食事ができます」
趣味も満喫している。例えば夫婦共通の趣味であるスタンドアップパドルボード(SUP)や、釣り、キャンプなどのスポットが多く、気軽に足を運べる。「週末がいわば非日常なので、旅行に行く頻度は減りましたね」
もともと別荘地なので利便性が高く、近所のスーパーまで徒歩10分。海の幸、山の幸に恵まれた土地柄、新鮮な魚介類や野菜が手に入る。「それでいて、お洒落なサンドイッチ屋さんや美味しいイタリアレストラン、カフェもあって、今はお店を開拓するのが楽しみ。ただ、夜遅くまで空いているお店は少なくて、夜は真っ暗です。日の出とともに起き、就寝時間も早くなりました。人間本来の暮らしに戻った気がします」

近場の漁港で釣り。「犬の散歩がてら立ち寄る程度なので、いつもこれくらいの軽装なんです」(写真撮影/片山貴博)

近場の漁港で釣り。「犬の散歩がてら立ち寄る程度なので、いつもこれくらいの軽装なんです」(写真撮影/片山貴博)

愛犬グラム君お気に入りの散歩スポット、小室山。芝生広場があり、ボール遊びを楽しむ(画像提供/本人)

愛犬グラム君お気に入りの散歩スポット、小室山。芝生広場があり、ボール遊びを楽しむ(画像提供/本人)

支出はダウン。テレワークで仕事の効率はアップ

暮らしのコストも下がった。以前の川崎市のマンションに比べれば、伊豆高原の住まいのほうが価格も安く、ローンの支払い額も大幅に減額に。駐車場代もない。新幹線通勤を含めた定期代は、会社支給の上限があるため、一部は自腹だが、休日の遠出に伴う費用がゼロになった。ローンの支払いを含めてトータルの支出は4分の1程度に減った計算になる。当然、家の改装費などのコストもかかるが、以前支払っていた管理費・修繕積立金はなくなった。
「不満点は今のところありません。移住して、テレワークを始めて実感したことは、会社に行かなくても仕事は成り立つということ。満員電車でゆられている通勤時間は、僕にとっては無駄でした。新幹線通勤で移動時間を有効に使えるのもアリですが、テレワークで移動そのものがなくなれば、身体が楽になり、仕事の質は上がると思います」
今後は、敷地内に家庭菜園やドッグランをつくろうと画策中のOさん。友人たちが遊びに来る計画もあり、「やりたいことが次々出てくる」そう。「最初はそれこそ、定年後に田舎暮らしと漠然と考えていましたが、体力もある40代の今のうちに決断して良かったと思います。友人からは”いいなぁ、田舎暮らし”とうらやましがられています。私たちは子どもがいないので移住の自由度が高いというのもありますが、きっかけさえあれば意外と簡単なのではないのでしょうか。今後はテレワークの頻度がもっと上げられたらと思っています」

近所を散歩。妻は移住を機に仕事を辞めたため、こちらに友人はいないが、犬の散歩を通して犬友達ができつつあるとか(写真撮影/片山貴博)

近所を散歩。妻は移住を機に仕事を辞めたため、こちらに友人はいないが、犬の散歩を通して犬友達ができつつあるとか(写真撮影/片山貴博)

運動量が多い犬種のため、雪の日も台風の日も散歩がマスト。丘や海辺も散歩でき、グラム君もすっかりこの環境が気に入ったそう(写真撮影/片山貴博)

運動量が多い犬種のため、雪の日も台風の日も散歩がマスト。丘や海辺も散歩でき、グラム君もすっかりこの環境が気に入ったそう(写真撮影/片山貴博)

新幹線通勤とテレワークの二本柱で、仕事を変えずに住環境を大きく変えたOさん。ハードルが高いと思われがちな田舎暮らしも、これなら40代でスタートできるかもしれない。

引用元: suumo.jp/journal