【京都】再建築不可の路地裏の長屋が子育てに理想すぎる住まいに! 子育て家…

再建築不可をあきらめない。官・民・専が一体となって取り組む「京都の子育てに適した路地活用」

(画像提供/八清)

都市部に多い路地物件は再建築不可とされているものが多い。リフォームはできても新築ができず、利便性の良い土地なのにうまく活用されていない場合がある。その問題に官・民・専が一体となって取り組み、子育てファミリーに向けて新しく建築した、京都の長屋プロジェクトを取材。実際に路地裏で子育てをしているファミリーにも話を伺った。

再建築不可の物件は実はポテンシャルが高い

再建築不可物件とは、建っている建物を解体して更地にしてしまうと、新たに建物を新築することができない土地のこと。主に建築基準法上の道路と2m以上接道していない場合や、路地や通路(非道路)のみにしか接していない場合も、原則、再建築不可となる。全国的にいうと総戸数6240万7400戸のうち、道路に接していない住戸は129万5500戸、幅員2m以内が292万3600戸あり(総務省統計局 平成30年度調査)、約7%近くが更地にしてしまうと新たに建物を建てることができない。

再建築不可物件の概念

再建築不可物件の概念

路地裏(写真/PIXTA)

路地裏(写真/PIXTA)

ところが基本的に再建築不可物件があるのは都市計画区域内、しかも昔から人々が暮らしていた都市部が中心で、今も人気の高いエリアが多い。再建築不可の物件を上手に活用することは、そのまちの魅力を保つ大きな要素になるはずだ。

東京では、一帯を大規模開発して、まったく違う景色にしてしまう手法が中心だが、京都では路地文化を活かしたまま再構築している例が見られる。リノベーションの技術が進み、どんなに古くても柱や梁など必要な建物の基礎さえ残っていれば、修繕・改修することは可能だが、火事などで建物自体が残っていない場合は、この手法が使えない。

しかし、乗り越えなければならないハードルも高い。京都では、この問題に官・民・専が三位一体となって取り組んでいると聞いた。一部が火事で焼失してしまい残されていた路地(袋路)を他の物件と一緒に再建することを可能にした例は、非常に興味深く、同様の課題に悩む街にとっても参考になると思う。

官・民・専が三位一体となって進める路地再生プロジェクト

京都の魅力の1つに、幅員の狭い細街路と約4,300本以上もあるといわれる行き止まりの通路、袋路(ふくろじ)の存在がある。もともとは人々の生活のために誕生した路地だが、隠れ家のような雰囲気と、京都のローカルな生活を感じられて、最近では、わざわざそういった場所に店舗を持つ場合も増えている。

門や扉がある路地も多い(画像提供/八清)

門や扉がある路地も多い(画像提供/八清)

ところが安全面や市場性という点では、課題を抱えていることが多い。路地奥の家は再建築不可の場合が多く、リフォームはできても、原則建て替え・増改築はできない。プロジェクトを進めるにあたり、山積する問題をひとつずつ解決していく必要がある。

現在、京都市では再建築不可物件の再生を図るために「路地カルテ」という取り組みを行っている。いわゆる再建築不可の敷地であっても、建築基準法の許可を受けることで建て替え等ができる場合があるが、接道許可を受けるまで許可の可否は判断できない。そのため「路地カルテ」を発行すれば事前に許可が可能な路地であることが確認でき、流通の促進になり、早い段階から住宅ローン審査にも応じてもらえる環境づくりを目指せるというものだ。

くわえて驚くことに、京都では「路地の再活用」という取り組みに、官・民・専が三位一体となって一緒に取り組んでいる。1994年に誰もが住みやすい京都のまちづくりをめざしてスタートした建築、不動産、建築行政等専門家のネットワークで構成する「都市居住推進研究会(都住研)」の存在が大きい。

30年以上、まちづくりの観点から路地再生に取り組んできた都市居住推進研究会

都市居住推進研究会(以下、都住研)が主体として「袋路内子育て支援住環境事業」に取り組んできたのが、下京区中堂寺前田町路地長屋再生プロジェクトだ。

今回お話を伺った都住研のメンバーは、京都美術工芸大学教授・京都大学名誉教授の髙田光雄氏(会長)、京都光華女子大学准教授でスーク創生事務所代表の大島祥子氏(事務局)、不動産会社 八清の会長の西村孝平氏(以下、運営委員)、京都女子大学准教授の是永美樹氏、京都美術工芸大学教授の森重幸子氏だ。

(前列左より)運営委員の西村孝平氏、会長の髙田光雄氏、(後列左2番目より)運営委員 森重幸子氏、事務局 大島祥子氏、運営委員 是永美樹氏(画像提供/八清)

((前列左より)運営委員の西村孝平氏、会長の髙田光雄氏、(後列左2番目より)運営委員 森重幸子氏、事務局 大島祥子氏、運営委員 是永美樹氏(画像提供/八清)

「もともとは2014年ごろに京都市から『20 数年前の火災で空き地になっている土地の焼け跡の始末・撤去に持ち主の相談に乗ってほしい』と相談されたことから始まりました。すでに消失しているのでリノベーションで再生するという手法は使えません。問題の解決には、周辺の建物の所有者との協働、さらに行政と一緒になった取り組みが不可欠でした」(運営委員 西村氏)

空き家化が進んでいた袋路内の6区画の土地を集約し、長屋建て住宅4戸を供給する取り組み。4戸の住宅は子育て世帯が快適に住めるように、住戸内、路地空間をその仕様で計画・デザインした。

「2016年から行政も交えて研究を重ね、2018年から国のモデル事業に採択。2方向避難が確保できるなら、特例許可により建設が可能ではないかという話になりました。子育て空間として再生・継承することが、都市課題を緩和することもできるとモデル事業として実施、その知見を他の路地の再生でも使えるようにしたいと考えました」(事務局 大島氏)

しかし、プロジェクトを進めるにあたり、山積する問題をひとつずつ解決していく必要があった。

「所有者が不明になっている土地や国有地(水路跡)も含まれていました。行政との協働なしには進められなかったと思います。また特例許可に必要な『路地・まち防災まちづくり整備計画』の作成や近隣の方々の通路の維持に関するご理解も必要でした。そのために新しく居住する子育て世帯、そして近隣住民が安心して快適に暮らせるための協定書も締結しました」(事務局 大島氏)

このような路地裏がどのように変身するのか(画像提供/八清)

このような路地裏がどのように変身するのか(画像提供/八清)

なぜ路地空間が子育てに適しているかも聞いてみた。

「もともと日本の都市ではいろいろな生活行為が道空間で行われてきました。道がコミュニケーションの場だったのです。私が子どものころだって道で遊ぶのはあたりまえでした。モータリゼーションが進んだ現在、路地は子育ち、子育てという点からも極めて重要な存在だと思っています」(会長 髙田氏)

建築行政というのは自治体がそれぞれカスタマイズしていることが多いが、京都では再建築不可物件を含めすべての建物に手を入れられる可能性がある状況だそう。

「行政の手も届き始め、うまく住みこなす人たちも増えてきました。その人たちに聞くと『路地空間に住んでみたら、結構いいと感じる』と評価が高いのです。子どもが家の前で遊べるのは、目が届くし、他の人にあいさつもできる、意外に使い勝手がいいという意見も聞かれました」(運営委員 森重氏)

「2012年に東京から京都に引越してきて、まず驚いたのは、路地の再活用という取り組みに、行政だけでなく研究者や建築家といった専門家と不動産業者が一緒に取り組んでいることです。東京ではあまり見られない気がします。一般的に路地を活かした事業は大規模にならないので、そんなに収益性がいいわけではありません。八清さんのような地元密着型の事業者さんだからこそ可能となる期待感があります」(運営委員 是永氏)

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完成した「あさひ長屋」は子育てに適した工夫がいっぱいの空間

あさひ長屋。LDKと路地が一体になる設計。格子の扉が美しい(画像提供/八清)

あさひ長屋。LDKと路地が一体になる設計。格子の扉が美しい(画像提供/八清)

下京区中堂寺前田町路地長屋再生プロジェクトは「あさひ長屋」として、2024年完成した。そこで路地空間がどう活かされているか見せてもらった。入口はまったく目立たないが、小さな通路をくぐると驚くほど開放的な空間が広がっている。もともと6軒の家が建っていたという場所は、各住戸が建っていた位置から大きくセットバックしたことで3mの幅員を確保した明るく開放感のある路地に生まれ変わった。

あさひ長屋の敷地配置図(画像提供/八清)

あさひ長屋の敷地配置図(画像提供/八清)

外観は4棟の長屋として設計されているが、それぞれの柱は独立しているので、柱を共有している長屋と比べると強度と防音性が高い構造。これはリノベーションではなく新築物件だから実現した大きなポイントだ。

一角には、住人用の駐輪スペースが設けられているうえに、宅配ボックスも設置され、現代生活に対応した設備も整えられている。

あさひ長屋のA号地。LDKから見た路地空間(画像提供/八清)

あさひ長屋のA号地。LDKから見た路地空間(画像提供/八清)

あさひ長屋のB号地。LDKはタイル貼りで床下暖房が設置されている(画像提供/八清)

あさひ長屋のB号地。LDKはタイル貼りで床下暖房が設置されている(画像提供/八清)

各住戸の間取りは、引戸による大開口が用意されていることがまず第一の特徴だ。1階には風通しが良く路地に開けたLDK(DK)があり、家族だけではなくご近所とのつながりが生まれやすい設計になっている。

1階部分の床はA・C号地が暖かみのある木のフローリングで設えられ、B・D号地がスタイリッシュなタイルと2パターンで仕上げられている。タイルの場合は床暖房を設置しており、冬の底冷え対策もされている。

また2階は和室と洋室を要したプライベートな空間、和室のふすま紙は各戸によって色を変えており、個性を楽しめるようになっている。

更に全戸モニター付インターフォンにすることで、安心して子どもと過ごすことができるように防犯性にも配慮している。

B号地の2階の和室。襖の色は各住戸で異なる(画像提供/八清)

B号地の2階の和室。襖の色は各住戸で異なる(画像提供/八清)

C号地の2階。ロフトスペースもあり、季節外のものなどを置ける(画像提供/八清)

C号地の2階。ロフトスペースもあり、季節外のものなどを置ける(画像提供/八清)

子育て家族には家賃を安くするシステム。実際に路地空間で子育てをしている方に話を伺った

「路地が子育てに向いている」というテーマで開発された中堂寺前田町の「あさひ長屋」。同じように八清プロデュースで路地奥を改修した「さらしや長屋」で暮らしているSさんに、路地でのくらしについて聞いてみた。

さらしや長屋に設置された黒板ボード。子どもたちが思いきり落書きできる(画像提供/八清)

さらしや長屋に設置された黒板ボード。子どもたちが思いきり落書きできる(画像提供/八清)

さらしや長屋の路地にはパーゴラ(※)のあるスペースも(画像提供/八清)
※ツタや籐などのつる植物をからませるためにつくられた、棚形あるいはトンネル形の構築物のこと(画像左奥)

さらしや長屋の路地にはパーゴラ(※)のあるスペースも(画像提供/八清)
※ツタや籐などのつる植物をからませるためにつくられた、棚形あるいはトンネル形の構築物のこと(画像左奥)

さらしや長屋は入口の扉をリノベーション後も残している(画像提供/八清)

さらしや長屋は入口の扉をリノベーション後も残している(画像提供/八清)

「マンション住まいのときには経験できなかったような、ご近所とのおつきあいができました。路地の入口には扉があり、そのため用事のない人は立ち入ることはありません。中に入ると顔見知りの人しかいないので、子どもも安心して遊んでいます。子育てを一人でしているのではない、という気持ちになれました。自分の家族だけでなく、周りの方に見守られながら子どもたちが育つのはいいことだと思いますし、私自身、以前よりストレスを感じなくなりました。」

路地裏の長屋には、入口に扉があることもある。リノベーションで取り払ってしまわずに残している。子育て中の家族には、毎月の家賃を抑えるシステムもオーナーの協力で導入している。

「うれしいシステムですね。路地部分には、子どもたちが好きに落書きしてもいいお絵かきスペースがあって、のびのびと落書きができます。賃貸でこんなに子育てのことを考えて作られた物件は他にないと思い、すぐに入居を決めました」

Sさんは入居から約7年、路地空間での子育てに満足して暮らしているようだ。

路地に多い再建築不可物件は、都市部の利便性のいい場所に存在することが多い。その隠れた価値に日を当ててて再活用することは、京都だけではなく全国的に必要とされているはず。今回のプロジェクトは地域に合ったカタチでの解決策を探す、いいきっかけになると思う。

引用元: suumo.jp/journal