アメリカ発の「小さな家」 タイニーハウスで実現する“シンプルで豊かな暮ら…

いま注目されるアメリカ発の「小さな家」 で“シンプルで豊かな暮らし”を実現

(画像提供 YADOKARI株式会社)

ここ数年で注目を集めつつある「小さな家」、タイニーハウス。移動ができるタイプであれば、トレーラーハウスのように“移動する暮らし”を実現できる利点もあります。アメリカでは、サブプライム住宅ローンの破綻やハリケーンによる被害などをきっかけに、「大きな家が豊かさの象徴」という価値観は揺らぎ、「シンプルに豊かに暮らしたい」というタイニーハウス・ムーブメントが起こっています。こうした動きは今後、日本で広まっていくのでしょうか。YADOKARI株式会社が運営するタイニーハウスの宿泊施設で、同社プロデューサーの相馬由季(そうま・ゆき)さんにお話を聞きました。

低コスト、居住空間の移動を可能にする“小さな家”の魅力とは

YADOKARI株式会社はタイニーハウスに関するメディア運営やイベント企画を行い、相馬さんはプロデューサーとして携わっています。

YADOKARI株式会社のプロデューサーの相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

YADOKARI株式会社のプロデューサーの相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

――まずはタイニーハウスの定義を教えていただけますか。

明確な定義はありませんが、弊社では基本的に「約20平米前後の大きさで、1000万円以内で購入できる家」と設定しています。ホイールの上に設置された、自動車で牽引する移動式のタイプもあります。

1000万円以内を目安にしているのは、人によってはローンを組まずに支払える金額ですし、組む場合でも数年間の短いローンで返済可能な場合が多いからです。つまり、長年ローンを返すためだけに働く必要がなくなります。そうすると、働く時間を減らしたり、収入にこだわらず本当にやりたい仕事をしたりと、充実した人生を送ることができるというわけです。

――タイニーハウスは日本でどのようにして注目されるようになってきたのでしょうか。

大きなきっかけとなったのが東日本大震災です。未曽有の大災害がきっかけで、徐々に暮らしの価値観に変化がもたらされてきたように感じます。所有するモノを減らしてシンプルに生きよう、働き方や、大事な人との暮らし方を見直してみようといった価値観を持つ人が増え、その結果、タイニーハウスにも目が向けられるようになってきたのではないでしょうか。

タイニーハウスをつくり始めたり、タイニーハウスと本宅との二拠点居住の生活をしたりするなど、行動を起こす人も少しずつ現れてきました。最近は住宅関連のメディアなどでも、この用語が取り上げられるようになったと感じています。

「近いうちにタイニーハウスに住む予定でいま準備を進めています。自分の体験を役立てていきたいです」と相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

「近いうちにタイニーハウスに住む予定でいま準備を進めています。自分の体験を役立てていきたいです」と相馬由季さん(写真撮影 ツマミ具依)

――タイニーハウスの課題はどんなところでしょうか。

一番は土地の問題ですね。小さな家なので大きい土地は必要ないものの、土地を購入してそこに電気やガス、水道を引く必要がある場合は結局費用がかさんでしまいます。

次に、いざ購入しようと思っても手間がかかるという点です。まだ日本では扱っているハウスメーカーが少ないですし、セルフビルドしようとしても設計の依頼や建築材料の調達など、問題が山積みです。

YADOKARI株式会社が運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」では、3種類のタイニーハウスに宿泊できるので、暮らしを体験するにはもってこいだ (画像提供 YADOKARI株式会社)

YADOKARI株式会社が運営する「タイニーズ 横浜日ノ出町」では、3種類のタイニーハウスに宿泊できるので、暮らしを体験するにはもってこいだ(画像提供 YADOKARI株式会社)

――タイニーハウスに興味を持つのはどのような人が多いですか?

1年ほど前、2017年秋に実施した初回の参加者は50~60代の男性がメインでした。定年後のセカンドライフで、別荘のように使うことを検討している人が多かった印象です。

それが徐々に変化し、最近では男女問わず30~40代の方がメインになりました。みなさんバリバリ働かれている方ばかりです。これはアメリカでも同じような傾向があったのですが、「モノを持つだけ持って、大きな家に住んでみたけど、その先に自分の幸せはなかった」「お金はあるけども、仕事が忙しく家族との時間がとれない生活は望んでいない」といった、今までの自分の生き方や暮らし方に疑問を感じたときに、タイニーハウスに興味を持つ傾向があるようです。

「タイニーズ 横浜日ノ出町」のハウス内。小さな家に、ベッド、トイレ、風呂などが完備されている(画像提供 YADOKARI株式会社)

「タイニーズ 横浜日ノ出町」のハウス内。小さな家に、ベッド、トイレ、風呂などが完備されている(画像提供 YADOKARI株式会社)

また、最近地方自治体からは移住を前提とした多くの相談を受けています。遊休地の活用や人口減の対策としても、タイニーハウスは期待できると考えています。

ただし、小さな家で暮らすことそのものを目的としてしまうと、結果的に不幸になってしまうケースもあるんです。アメリカでブームになったときは、タイニーハウスに住めば幸せになれると期待して住みはじめたものの、「狭すぎる」と売ってしまう人もいたそうです。日本でも単にブームだというだけで購入してしまうと、後悔しかねませんので注意が必要です。

タイニーハウスが働き方、生き方を見直すきっかけに

タイニーハウスの全体像が見えてきたところで、実際に住んでいる方にもお話を聞いてみました。タイニーハウスに住んで4年になるNPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央(すずき・なお)さんです。

NPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央さん(画像提供 鈴木菜央さん)

NPO法人グリーンズ代表の鈴木菜央さん(画像提供 鈴木菜央さん)

――なぜタイニーハウスに住むようになったのでしょうか。

以前は、賃料12万円の150平米の2階建て賃貸住宅に住んでいましたが、一時期体調を悪くして仕事も行き詰まり、夫婦関係も良好ではないなど心身ともにボロボロの状態になりました。そこで生活を見つめ直し、「自分はどんな家でどんな暮らしをしたいんだろう」と考えていたときに、タイニーハウスに出合ったことがきっかけで住むことになったのです。
必要最低限のエコな暮らしに興味があったし、月々の賃料の支出を減らすことで少ない稼ぎでも生活は維持できる。そうすれば夜中まで仕事をしなくていいし、家族の時間も増える―――。このように総合的に判断して、とても合理的な生活ができると思いました。

千葉県いすみ市にある鈴木菜央さんのタイニーハウス。家族4人で暮らしている(画像提供 鈴木菜央さん)

千葉県いすみ市にある鈴木菜央さんのタイニーハウス。家族4人で暮らしている(画像提供 鈴木菜央さん)

――住んでみて分かったタイニーハウスのメリットとデメリットを教えてください。

狭いので片づけが楽、同じ部屋にいることが多くなり家族の距離が縮まるなどメリットはいろいろあります。しかし一番は、月々の賃料を支払う金銭的な不安から解放され精神的に自由になれたことです。このタイニーハウス自体は中古物件で4年ローンの480万円で購入し、最近支払いが終わりました。たった4年で住宅ローンが完済するなんて通常では考えられませんよね。また、光熱費も以前の半分ほどになり、賃料の負担が減った分とあわせて、家族で海外旅行をする費用などに回して楽しんでいます。

広さは、ロフト部分を含め約50平米。1階はリビング兼ダイニング、廊下兼キッチン、寝室、トイレです。ロフト部分は、天井が低い高さ140cmの子ども部屋と高さ110cmの荷物置きスペースという間取りになっています。

デメリットは、強いてあげれば、トレーラーでけん引して移動するので、家が多少傷んでしまう点が挙げられます。10トンの中古物件を購入したこともあって、トレーラーで運んだときの揺れで壁に亀裂が入ったり、水まわりが少し弱くなったりと一部損傷が発生しました。

また、正直「部屋が狭い」と感じることがあります。2人の子どもが大きくなってきていることも理由の一つです。その反面、家具をコンパクトにしたり、その他にも物を厳選して増やさないようにしたりと、生活を工夫できる楽しさがあります。それはそれで良い暮らしだと思っています。

室内の様子。ときには家具を一から製作し、空間を有効活用している(画像提供 鈴木菜央さん)

室内の様子。ときには家具を一から製作し、空間を有効活用している(画像提供 鈴木菜央さん)

――どんな人がタイニーハウスの暮らしに向いていると思いますか?

暮らすためにはいろんな工夫が必要になるので、日々冒険する感覚でデメリットも楽しめる人ですね。パッケージで、完成したものが欲しいという人には不向きといえるでしょう。

例えば、私の場合は部屋が狭いので、部屋と同じくらいのサイズのウッドデッキを造りました。ちょっとしたことなら外のデッキで作業ができたり、天気のいい日には食事をしたり、洗濯物を干したりできるようになりました。

このウッドデッキの増設により居住空間の移動は難しくなったものの、当面は移動せず、広くなった生活スペースで快適に過ごしたいそう。
働き方や生き方の多様化が進む昨今。シンプルで、状況に応じて移動も可能なタイニーハウスは、これからの住まい選びの選択肢の一つになっていくかもしれませんね。

引用元: suumo.jp/journal