これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、若い世代もデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点生活者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます。
ダイナミックな自然に囲まれた空き家に一目惚れ、その日のうちに購入を決定
坂田夫妻と南伊豆のクリフハウスとの出会いは3年前の夏。秋に結婚式を控え、新居は実家にも近い吉祥寺の賃貸一戸建てに決まっていた。当初は購入も考えたが、都内で条件に合う広い家は無理だと判断した。暮らす拠点は決まったものの、夫婦ともに大の自然好き。夫のBさんは「婚約指輪の代わりに滝のある森林でも買おうか」と本気で言うほどだ。大都市だけに住むということになんとなく違和感があったし、映像関係の自由度の高い仕事なので東京に縛られることなく、賃貸でない自分たちの居場所も欲しかった。
そんなとき、下田での海水浴帰りに出会ったのが、海と山に囲まれ周りには家もない、まさに理想的な環境の崖に建つ別荘。10年近く空き家だったため、1000平米もある広い敷地内には草木が森のように茂り、1時間半かけてようやく見つけた小さな建物のドアは外れ、ガラス窓は割れ、鉄筋はさび、蔦に覆われ、文字通り廃墟同然。野生動物の巣になっていたらしく家の中に蛇までいて、床も泥だらけだった。
それでも建物を見つけたときにトキメキを感じ、「二人同時に恋に落ちた」というまさに一目惚れ。廃墟同然の家でも「今から思えばデザインの力でしょう、昔はすごかっただろう雰囲気にピンときて、この家を以前の姿に再生してあげたいと強く感じました」と華さん。売り出し価格は900万円台。初めて訪れた場所で地縁もなかったが、その日のうちに購入を決めた。結婚を控えた30代の二人に資金的なゆとりはなく、ハネムーンや婚約指輪もこの購入費用に充てられた。
大自然に覆われた廃墟がDIYと改修工事で絶景の夢の家に蘇る
全面ガラス張りのモダンな家と広々ウッドデッキとパノラマの海
購入しても改修工事の資金はなく、貯めるまでの約1年間は毎週末二人で現地に出かけてDIY。ボロボロでとても人が住める状態ではなかったためキャンプのように家の中にテントを張り、割れた窓をポリカーボネートとガムテープで塞いだり、泥だらけの床を高圧洗浄機で何度も何度も掃除したり、ジャングル状態の蔦を取り払うなど、自分たちでできることは全てやった。
身内には「返品してきなさい」、大工さんにも「あの物件買っちゃったの」、と言われるほど、改修困難な物件だった。実際見積もりをすると新築より高い3500万円と言われたこともあり、誰もが「直すにはお金がかかりすぎる」と反対した。しかし二人は直感を信じて夢の家通いとDIYを続けた。通ううちに地元の方々との交流も増え、「ユリを植えると球根を猪が食べに来て、石垣が破壊されるからやめたほうがいい」など地元ならではのアドバイスに助けられた。そこから良心的な大工さんにも巡り合い、購入1年後に建物本体の改修工事とウッドデッキ新設を依頼。工事期間も、進捗状況を見るのが楽しみで毎週末現地に通った。
そうして蘇ったのが絶景のクリフサイドハウス。1969年築と、築50年に近いとは思えないモダンな建物と海に突き出す広々したウッドデッキ、まさに夢の家だ。華さんはパソコンさえあれば仕事場所は問わないため、完成後は平日ほとんどをここで過ごすほどだった。「朝日で目が覚める、目の前に海が広がっている、猿が屋根で飛び回る、沈む夕日の美しさにハッとする……。時間がゆったり流れ、自然の中にいるだけで生き返る気がします。都会だけで生活していたときに比べメリハリがついて、仕事にもより集中できるようになりました」
大自然の中でオンオフ切り替え。使わないときは民泊としても利用しフル活用
改修工事が終わって住めるようになってからも、DIY仕事はいまだに尽きることはない。玄関まわりのアプローチや外構の整備、埋まっていた階段を掘り返す、草を刈る、など、時には家族や友人も動員して行った。広大な庭の手入れをして、季節ごとに咲く花を見て回り、果実を収穫するのも楽しみのひとつ。特に予定がなくても、現地に行くだけで空気が違うので浄化される。海に突き出した絶景のウッドデッキでのブランチや、ハンモックでの休憩が最高のご褒美だ。
現在は利用していないときは民泊として貸し出し、こちらも絶景ゆえに大人気。愛着のある家を他人に貸すというのは気がかりも多いだろうが「多くの人に利用してもらうことで家も活気づき、輝きを増す気がします。この夏は人気のホテル並みに宿泊希望が入ってびっくり。自分たちが使う暇がないくらいでした」。この収入は、全てこの家の改修に還元され、手を付けたいところがたくさんあるので助かっているという。
吉祥寺が生活の拠点であるならば、二拠点目の南伊豆は理想通りの自然に囲まれた夢の家。ここに来れば、心が解放され、夫婦の会話も弾む、リラックス空間としてだけでなく、クリエイティブな仕事もはかどる、最強の仕事場としても機能している。また何よりも巣づくり優先になったので、無駄遣いもしなくなったという。「出来上がるまでの過程も、ここで過ごす時間もどれもとにかく楽しいです。旅行と違って思い立ったときに渋滞を避けて行き帰りできるし、自分たちが時間と手間をかけた家だからこそ思い入れも全く違います」と華さん。デュアルライフはパワフルに人生を楽しむお二人にとって、自然に癒やされパワーチャージする必然の選択だったようだ。