タイニーハウス村が八ヶ岳に出現!? 「TINY HOUSE FESTIV…

「タイニーハウス」がコロナ禍で進化? 八ヶ岳でコミュニティプロジェクト「ホームメイド」も始動

(画像提供/HandiHouse project 佐藤陽一)

タイニーハウス(=小さな家)による持続可能な暮らしを提案する「TINY HOUSE FESTIVAL2021」が、東京駅前で2021年10月に開催された。コロナ禍を経た今年、タイニーハウスはどう変わったのだろうか。最新のタイニーハウスの話とともに、探ってみた。

暮らしの多様化とともに、住まいの形も変化していく

コロナ禍でワークスタイルが変化してきたなか、自分たちの暮らし方や住まいについて見直す時間が増えてきた人も多いだろう。自宅での仕事スペースの確保や、プライベートとの切り替え方など、新たな課題が浮き彫りになってきたかもしれない。タイニーハウスは、その解決策のひとつとして需要が高まってきているという。
例えば、テレワークのスペースとして活用したいと考える人もいれば、アウトドアでの活動が増えて、移動先でも居心地良く過ごすためにバン型を使いたいという人もいる。テレワークが進んで、都心に住む必要のなくなった方が、二拠点生活をするために取り入れるという形も。

テレワーク化が進み、仕事をするためのワークスペースとして提案しているタイニーハウスもあった(画像提供/HandiHouse project 大石義高 佐藤陽一)

テレワーク化が進み、仕事をするためのワークスペースとして提案しているタイニーハウスもあった(画像提供/HandiHouse project 大石義高 佐藤陽一)

(画像提供/HandiHouse project 大石義高 佐藤陽一)

(画像提供/HandiHouse project 大石義高 佐藤陽一)

そもそも、タイニーハウスは、2000年代にアメリカで生まれた「タイニーハウスムーブメント」が発端と言われている。その後、2007年に住宅バブルの崩壊とともにサブプライム住宅ローンが破綻し、翌年にはリーマンショックが起きた。そんな背景から、消費社会に縛られない、経済に左右されないカルチャーとして今さらなる広がりを見せているのだ。
暮らしにどれくらいの費用をかけ、何に時間を費やし、どのような生活をしていきたいか。「お金と時間の自由」を大切にしたいと考える人たちにとって、そのライフスタイルを体現できる形が「タイニーハウス」というわけだ。
その広さに明確な定義はないものの、だいたい延べ床面積は20平米以内のものが多い。もちろん、キャピングカーなどのバン型の車を使ったモバイルハウスも含まれる。価格の幅は広いが、一般的な住宅に比べれば低コストで手に入れやすい。後から住み手が好きに手を加えやすく、小さいがゆえに移動も自由。そんな魅力が積み重なって、暮らしの選択肢の一つとして注目が集まっている。
その見本として、数々のタイニーハウスが集まったのが「TINY HOUSE FESTIVAL」だ。2019、2020年と開催され、今年は一体どのように変化しているのだろうか。

東京駅近くで開催された今回の「TINY HOUSE FESTIVAL2021」。車に牽引されている小屋もあれば、荷台に取り付けられているコンテナなどさまざまな形態のものがあった。ビルの狭間のスペースだったことから、その小ささがなおのこと強調されて見える(画像提供/HandiHouse project 佐藤陽一)

東京駅近くで開催された今回の「TINY HOUSE FESTIVAL2021」。車に牽引されている小屋もあれば、荷台に取り付けられているコンテナなどさまざまな形態のものがあった。ビルの狭間のスペースだったことから、その小ささがなおのこと強調されて見える(画像提供/HandiHouse project 佐藤陽一)

個々の用途に合わせた、幅広いタイニーハウスが登場

主催者の一人であり、「断熱タイニーハウスプロジェクト」などさまざまなタイニーハウスを手掛けている建築家の中田理恵さん(中田製作所/HandiHouse project)は、昨今の流れについて以下のように話す。

「コロナ禍でさまざまな形の暮らし方が広がったと思います。先日は、集合住宅の管理会社から相談がありました。マンション全体で使えるワークスペースをつくりたい、ということでタイニーハウスを設置できないかという話だったんです」

マンションで暮らす人にとって、新たに部屋を確保するのは難しいこと。しかし、全戸共有のタイニーハウスがあれば、テレワークのスペースとして使ったり、ワークショップやフリーマーケットなどの小さなイベントをしたりと、臨機応変なスペースになるに違いない。
また、空地を飲食スペースとして暫定利用するため、タイニーハウスを置きたいという要望にも応えたという。

「コロナ禍で飲食店が大変な状況なため、屋外でテイクアウト専門店を期間限定で出すというプランでした。そういう突発的なことにもすぐに対応してつくれるのは、タイニーハウスならではだと思います」

中田さんが手がけた「FLATmini」。2020年春に完成した青森県八戸市の「FLAT HACHINOHE」を拠点に、地域の「遊び場」「学び場」を発見・発掘するためにはじまったプロジェクト。八戸市内外を移動しながら、まちの人や来訪者と有機的に繋がり、「動く部室」として機能しているタイニーハウスだ(写真撮影/相馬ミナ)

中田さんが手がけた「FLATmini」。2020年春に完成した青森県八戸市の「FLAT HACHINOHE」を拠点に、地域の「遊び場」「学び場」を発見・発掘するためにはじまったプロジェクト。八戸市内外を移動しながら、まちの人や来訪者と有機的に繋がり、「動く部室」として機能しているタイニーハウスだ(写真撮影/相馬ミナ)

アメリカのムーブメントを取材し、各地での知見をもとにタイニーハウスの製作を行っている「Tree Heads & Co.」の竹内友一さんもタイニーハウスを展示。
「宮城県気仙沼市では、東日本大震災の津波によって流れ着いたものを使って、みんなのシェルターになるツリーハウスをつくりました。ほかにも、障がい者の就労支援の休憩所や、移動式ビアバー、牛舎を解体して宿泊所をつくったりもしました」

今までつくったタイニーハウスは65以上で、この日はキャンピングカーをリビルドしたタイニーハウスが登場。

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

「オーダーしてくれた方は、これでスキーできる山の近くで過ごしたいということでした。料理はできなくていいということなので、脱ぎ着できるスペースと寝る場所としてのタイニーハウスというわけです。
運転席上の寝室スペースは、断熱材などを入れて暖かさを追求していますが、寝室スペース以外は板壁にしてコストダウンしています。休憩スペースはソファを置いてくつろげるようにしています」

スキー終わりにくつろいだり、ゆっくり寝るためのタイニーハウス。運転席上には寝室スペースがある(写真撮影/相馬ミナ)

スキー終わりにくつろいだり、ゆっくり寝るためのタイニーハウス。運転席上には寝室スペースがある(写真撮影/相馬ミナ)

タイニーハウスがあることで、自由に移動をしたり、好きなスペースを確保したりと、暮らしの幅が広がっているのだろう。そんな考え方は、他にもさまざまな形態で現れている。

例えば、煙突が出ているタイニーハウスは「旅するサウナ まんぷく号」。軽トラックの荷台に小屋を載せ、移動式のサウナにしている。いつでもどこでもサウナを楽しみたい、楽しんでもらいたいという思いで始まったプロジェクトだ。これなら、自宅にサウナがない人も気軽に自由に使えて、ひとときの満足感を味わうことができる。

昨今のサウナブームからも人気の高い移動式のサウナ(写真撮影/相馬ミナ)

昨今のサウナブームからも人気の高い移動式のサウナ(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

まだ軽トラックに躯体しかできていないタイニーハウスもあった。これは「スエナイ喫煙所」というプロジェクト。喫煙所でのコミュニケーションを非喫煙者でも楽しめるようにと、中央にはノンニコチンのシーシャを設置している。一つのシーシャを共有することで自然とコミュニケーションが生まれ、新しい形の喫煙所をつくろうというもの。建築学を専攻している学生が中心となっているプロジェクトで、今まさにクラウドファンディングで資金を集めている最中だという。

少しずつこれから形になっていく予定の「スエナイ喫煙所」。コミュニティスペースとしての提案であり、コロナ対策もきちんとされていた(写真撮影/相馬ミナ)

少しずつこれから形になっていく予定の「スエナイ喫煙所」。コミュニティスペースとしての提案であり、コロナ対策もきちんとされていた(写真撮影/相馬ミナ)

写真右下が完成予定の模型(写真撮影/相馬ミナ)

写真右下が完成予定の模型(写真撮影/相馬ミナ)

このように用途と目的に合わせ、自由な形で広がっていくことができるのがタイニーハウスなのだ。

持続可能な暮らしを目指すタイニーハウス。断熱など住宅性能も追求

SDGsの流れが強まり、持続可能な暮らしに目を向ける人たちが増えてきたのも、タイニーハウスが注目される後押しになっている。暮らしの幅を広げるだけでなく、脱炭素など環境への配慮や、暮らしやすさを追求したタイニーハウスも見られた。

「断熱タイニーハウスプロジェクト」は、2019年に開催されたイベントから毎年変わらず出展している。発案者は大学で都市環境を学んでいた沼田汐里さん。「断熱」の大切さを身近に感じてもらうために製作したタイニーハウスで、天井や壁、床、すべてに断熱材の「ネオマフォーム」が入っている。省エネを考えたときに、夏の暑さと冬の寒さに対応できなければならないが「断熱と気密がしっかりしていれば、最小限のエネルギーで暮らすことができる」と沼田さんは教えてくれる。また、「Do It Together」を意味する「DIT」をコンセプトに、HandiHouse projectの中田さんたちプロの指導のもとにセルフビルドしたものでもある。環境にも住み手にも快適な住まいを自分たちの手で楽しみながらつくれるということを教えてくれるタイニーハウスだ。

窓から顔を出す「断熱タイニーハウスプロジェクト」の沼田さん(写真撮影/相馬ミナ)

窓から顔を出す「断熱タイニーハウスプロジェクト」の沼田さん(写真撮影/相馬ミナ)

断熱の温度を実感したいとたくさん人が出入りしていた(写真撮影/相馬ミナ)

断熱の温度を実感したいとたくさん人が出入りしていた(写真撮影/相馬ミナ)

同じく毎年出展しているのが「えねこや」で、太陽光発電と蓄電池で電力を自給する「オフグリッド」タイプのタイニーハウスを紹介している。小さなスペースながらも、キッチンやエアコンが設置され、ペレットストーブもあって実に快適そうな空間だ。日本の木窓メーカーの窓を採用し、断熱や気密性を高めて、電力消費を抑える工夫をしながら、太陽光を活用することで、オフグリッドを実現している。再生可能エネルギーだけで快適に過ごせるのは、タイニーハウスならではのこと。もちろん、災害時に強いのはいうまでもない。

えねこやは、災害時に被災地へけん引していき、復興作業に携わることもできるという(写真撮影/相馬ミナ)

えねこやは、災害時に被災地へけん引していき、復興作業に携わることもできるという(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

(写真撮影/相馬ミナ)

これからのタイニーハウスの広がりとは?

「Tree Heads & Co.」の竹内さんは、タイニーハウスの製作に加え、新しいプロジェクトをスタートさせた。実際にタイニーハウスで暮らしたい人を募集して敷地を共有し、必要な技術や道具、情報をシェアしてコミュニティをつくっていきたいと話す。

「『ホームメイド』というプロジェクトで、僕たちが持っているタイニーハウスに関する知識をシェアしながら暮らしのコミュニティをつくりたいと考えています。住まいとしてのタイニーハウスだけでなく、食べ物やエネルギーなども、少しでもいいから自分たちの力で手づくりしてみようという試みです」

住まいだけでなく、畑仕事をしたり、周辺の環境整備なども視野に入れているのだそう。

「知識がない、道具がない、場所がない。たくさんの人からそういう話を聞くので、だったら僕たちが持っているものをシェアして、みんなで暮らしを考えていくことができればと思っています」

「ホームメイド」構想(画像提供/TREE HEADS & Co.)

「ホームメイド」構想(画像提供/TREE HEADS & Co.)

また、HandiHouse Projectの中田さんも、これからのタイニーハウスの可能性について教えてくれた。

「住まいはもちろん、店舗やパーソナルな仕事場など、いろいろな形が求められていると思います。個人だけじゃなく、自治体も目を向けていて、移住者のためにタイニーハウスを取り入れている地域も出てきました」

山梨県ではまず土地のことを知ってもらい、どんな暮らしができるかを試せるようにと、「移住者向けお試し住宅」としてタイニーハウスを建てているのだそう。そこを拠点に仕事や生活のベースを見つけてもらえれば移住の促進につながるというわけだ。「いろいろな要望が増えてきて、タイニーハウスだからこそできることが広がっていると実感しています」(中田さん)

コロナ禍が続き、少しずつ環境や人々の価値観が変わっていくなかで、自分たちの暮らしを考える時間はますます増えていくだろう。暮らしのなかで何を優先し、大切にしたいのか。誰とどこでどんな時間をすごしていきたいのか。働く場所や環境をどう整えていきたいか。
それぞれの答えがあるもので、決めたからといってそれが永遠に続くわけでもないだろう。臨機応変に対応していければ、心地よく健やかに過ごす時間はきっと増えるに違いない。タイニーハウスは選択肢の一つ。選択肢が増えればそれだけ私たちの暮らしは自由になっていくはずだ。

引用元: suumo.jp/journal