【東日本大震災後10年】築21年以上の木造住宅、9割が大地震で倒壊の恐れ

【東日本大震災後10年】築21年以上の木造住宅、9割が大地震で倒壊の恐れ

(画像/PIXTA)

東日本大震災から10年。2021年2月にも大きな余震があり、巨大地震への不安をぬぐえないでいる。そんななか、木耐協が耐震診断結果の調査データを公表した。建築基準法の耐震基準が大きく変わると、耐震診断の結果も連動して変わる結果となっている。そこで、建築基準法と耐震診断の耐震性について掘り下げたいと思う。
【今週の住活トピック】
「木耐協 調査データ(2021年3月発表)」を公表/日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協)

耐震診断をした木造一戸建ての9割が現行の耐震基準を満たしていない

木耐協の耐震診断の調査は、1950年~2000年5月までに着工された「木造一戸建て(在来工法・2階建て以下)」が対象となる。今回の調査データは、2006年4月~2021年2月に行われた耐震診断の結果に基づいている。

木耐協が耐震診断結果を把握している2万7929棟で見ると、現行の耐震基準を満たしているのはわずか8.5%。残りの91.5%は耐震基準を満たしていない(大地震で倒壊する可能性がある/倒壊する可能性が高い)。住宅が倒壊してしまうと、そこに暮らす人々の命を守れないことになる。

なお、調査対象の一戸建ての平均築年数は37.15年とかなり古い。耐震補強工事をする場合は、おおよそ150万円かかるという。

建築基準法の耐震基準と耐震診断の診断基準の考え方は?

ここで、建築基準法の耐震基準と耐震診断の判定方法について、整理しておこう。

まず、建築基準法は、生命や財産、健康を守るために建築物について最低の基準を定めた法律だ。地震から身を守るための基準も含まれている。耐震基準については、「1981年6月」に大幅に改訂され、それより前を「旧耐震基準」、それ以降を「新耐震基準」と呼んでいる。

木造一戸建ての耐震基準は、さらに「2000年6月」にも大きな改訂があった。つまり、2000年6月以降に建築確認申請を受け付け、着工された木造一戸建てが、現行の耐震基準で建てられた住宅とみなされる。木耐協の耐震診断の調査は、1950年~2000年5月までに着工された住宅なので、旧耐震基準の住宅と、現行より劣る新耐震基準の住宅(木耐協では「81-00木造住宅」と呼んでいる)が対象ということになる。

木造一戸建てに関わる耐震基準の改訂

(作成/SUUMO編集部)

建築基準法と耐震診断の考え方の違いについて、木耐協のリリースで詳しく説明されているので、それを紹介しよう。

まず、建築基準法では、耐震計算する際に想定する地震を次の2段階に分けている。
・大地震:建物が建っている間に遭遇するかどうかという極めてまれな地震(数百年に一度起こる震度6強クラスの地震)
・中地震:建物が建っている間に何度か遭遇する可能性のある地震(震度5強程度)

つまり、「大地震時には人命を守ること」、「中地震の場合には建物という財産を守ること」を目標とするのが、建築基準法の考え方だ。

これに対して、耐震診断では人命を守ることに重点を置き、「大地震時に倒壊しない」ための耐震性確保を目標としている。したがって、耐震診断では大地震への対応という1段階のみで考えている。

木耐協の「耐震性の評価方法」は、(一社)日本建築防災協会の一般診断法に基づいて行った耐震診断で、診断結果(評点)により次の4段階で判定している。(1)と(2)が現行の耐震性を満たしている住宅となる。
(1) 倒壊しない
(2) 一応倒壊しない
(3) 倒壊する可能性がある
(4) 倒壊する可能性が高い

81-00木造住宅も耐震診断が不可欠

さて、さきほどの耐震診断の結果を再度見てみよう。「旧耐震基準住宅」と「81-00木造住宅」に分けて見たところ、現行の耐震基準を満たすとみなされる住宅((1)と(2)の合計)は、旧耐震基準住宅では2.7%しかないが、81-00木造住宅では増加して14.1%になるものの、85.9%には倒壊のリスクがある。

※築年が1950~1980年を旧耐震住宅、1981~2000年5月を81-00木造住宅に分類

※築年が1950~1980年を旧耐震住宅、1981~2000年5月を81-00木造住宅に分類

つまり、1981年6月以降に着工した新耐震基準の木造一戸建てであっても、2000年5月までに着工したものの大半が倒壊するリスクがある、という結果だ。

政府は、地震による住宅の倒壊を防ぐために、旧耐震基準の木造一戸建ての耐震化に力を入れている。そのため、ほとんどの自治体で、耐震診断の診断員を派遣したり、耐震診断や耐震改修設計、耐震改修工事の費用の一部を助成したりする制度を用意している。特に巨大地震の可能性が高いとされる地域の自治体ほど、助成制度の内容を手厚くする傾向が見られる。

原則として、旧耐震基準住宅の現行基準への耐震化が助成の対象となるが、中には81-00木造住宅の場合でも費用を助成する自治体もある。また、「現行の耐震基準まで補強する」という改修工事の条件だと、改修工事費用の自己負担額が払えないからと工事そのものを断念する人もいるため、より低い耐震工事のレベルでも助成する自治体も一部にはある。

とはいえ、木耐協の調査データによると、81-00木造住宅でも倒壊リスクが高いため、補助金等の助成の有無にかかわらず、自宅をリフォームする際や中古一戸建てを購入する際には、ぜひ耐震診断を受けてほしい。

予算に応じた補強工事を検討して、リスクを軽減しよう

木耐協は、「予算内で可能な『減災設計』も視野に」入れることも勧めている。住宅の築年数が長くなるほど、住む人の高齢化も進むため、長期のローンを組んだりすることもできず、耐震改修工事の費用負担が大きな問題となる。であれば、予算に応じた範囲でも耐震補強をしたほうがよいというわけだ。

もちろん、耐震診断の「(1)倒壊しない」に引き上げるまで補強工事をするのが理想だが、諦めて何もしないよりは、捻出できる費用でできるだけ補強することのほうがリスク軽減になる。

例えば、耐震補強で効果が大きい工事はいくつかある。
・構造上の柱などの接合部に金物を取り付ける
・耐力壁を追加したり、筋交いなどを補強したりする
・腐朽や蟻害で弱くなった柱や土台を強化する
・土瓦の屋根を軽量なものにふき替える

すべて実施するだけの費用を負担できないとしても、建築士と相談して最も効果の高い工事を選んで実施するということも、視野に入れるとよいだろう。

また、中古一戸建てを買う場合は、耐震改修工事は住み始めてから工事することが大変になる(壁を剥がす工事が多く仮住まいが必要になるなど)ので、住む前に実施しておくのが効率的だ。まず耐震診断を受けて、これから住む住宅の耐震性を把握することがきわめて大切だ。

住宅はそこに住む人の命や財産を守る箱でもある。自治体の助成制度や耐震リフォーム減税・グリーン住宅ポイント制度などの優遇制度を利用したり、高齢者であればリバースモーゲージを利用したりと、費用負担を軽減する方法もある。東日本大震災後10年の節目に、地震に対してどう備えるのか、長い目でよく考えてほしい。

引用元: suumo.jp/journal