2023年、不動産市場はどうなる!? 住宅ローン金利、円安、物価高騰の影…

2023年の住宅市場はエリア格差が広がる!? 日銀総裁の交代による動向にも注目

(画像/PIXTA)

2021年には、首都圏の新築マンション発売平均価格が1990年バブル期を超え過去最高を記録(不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2021年まとめ」より)しましたが、2022年は都市部から徐々に頭打ち感が出始めてきました。では、2023年の不動産市場はどうなっていくのでしょうか。個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションを行うさくら事務所会長の長嶋修さんに、今後の展望を伺いました。

新築マンション価格は都市部から徐々に頭打ちに

2020年のコロナ禍を経て居住快適性のニーズが高まり、緊急事態宣言で落ち込んだ需要が一気に回復。都心部の新築マンションの在庫は減り、2021年の首都圏の新築マンション平均価格はバブル期の1990年の記録である6123万円を上回り、6260万円にまで上がりました。しかし、2022年に入ると都心から徐々に頭打ち感が出てきたと、長嶋さんは言います。

「都心3区(千代田、中央、港区)や5区(3区+渋谷、新宿区)から火が付いて23区の都市部の不動産価格が高騰し、2021年の後半には神奈川、埼玉、千葉といったような郊外でも利便性が高いエリアにまで波及していきました。
しかし、さすがにこれ以上は上がらないというレベルまで価格が高騰し過ぎてしまい、2022年の中頃くらいになると23区などの都市部については頭打ち感が出てきました。今後は価格の落ち着きは郊外にも波及していくでしょう」(さくら事務所 長嶋さん、以下同)

さくら事務所会長・不動産コンサルタントの長嶋さん

さくら事務所会長・不動産コンサルタントの長嶋さん(画像提供/さくら事務所)

そして、よりエリア間格差が広がる可能性を指摘。前述した都市部や一部の利便性の高いエリアを除いて、ほとんどは緩やかに下落が加速し、地方ではマイナスになるエリアも出てくることが予想され、より三極化が浮き彫りになるといいます。

「この三極化の流れは変わらないでしょう。ただし、高値を維持できるのは、都心・駅前・駅近・大規模・タワーという条件にあてはまる、利便性が高く、値が張る物件に限られます。今の不動産購入者層は共働き世帯が中心。自動車保有比率は年々下がっているため交通の便は重要。さらに、コロナ禍を経て、通勤時間の無駄をなくして時間を大事にしたいと考える人が増えています。
中古マンション価格は頭打ちになってきているので、都市部の立地のいいものほど今売り時が来ているのかもしれないですね。今後郊外にも波及していくようであれば同様の傾向になるでしょう」

土地の価格三極化の説明図

今後も価格が上昇するエリア、なだらかに下落するエリア、マイナスになるエリアの三極化が続き、より格差が広がる見通し(画像提供/さくら事務所)

物流システムが滞ったことを受けて、中古一戸建て市場も活況に

新築マンションの価格高騰および供給数の減少により中古マンションが活況となり、2022年中頃からは新築、中古一戸建て市場にも波及してきた、と長嶋さんは言います。

「コロナ禍だけでなく、2022年はウクライナ情勢の影響を受けて物流が滞り、特に半導体は今もまだ供給制約がある状態が続いています。新築マンションの場合は物件の企画から引き渡しまでが長期にわたる計画のため、こうした外的要因にリニアに反応しにくいですが、戸建ての場合は計画をしてから4カ月~5カ月後には完成するため、半導体が安定的に供給される見込みがないと供給に影響が出てしまう。そのため、中古戸建ても早期に価格高騰が起こりました。
資材価格はまだ上げ止まりの気配がない状況なので、エンドユーザーへの最終的な価格転化もまだ終わっていません。このままの延長線上でいくと、建築費やリフォーム・リノベーションの費用はもう一段上がる可能性もあります。新築物件価格の高騰や供給減を受けて中古市場が活況になっていますが、工事費用の上昇や工期遅れなども含めて検討する必要があるでしょう」

木材のイメージ

住宅資材価格の高騰は今後も続く見込み。それに伴い、リフォームやリノベーションなどの工事費用も上がる(画像/PIXTA)

2023年4月以降、日銀黒田総裁の交代による影響は?

しばらく住宅市場は好調に推移する見込みですが、今後も住宅市場の動向を予測するにあたり、長嶋さんは2023年4月の日銀総裁交代に注目している、と言います。

「日銀の政策スタンスが変更となり、0.25%から上限0.5%までの「事実上の利上げ」が行われました。「世界的にインフレが進み、アメリカの中央銀行に当たる FRB(連邦準備理事会)、欧州中央銀行(ECB)共に利上げに転換している中でも、日本は、現状日銀の金融緩和政策が続いており、しばらくは低金利状態のままで進んでいくと予想されてきました。この圧倒的な低金利によって日本の不動産市場は支えられ、日銀総裁の交代により、金融緩和から引き締めに転じるなど基本方針が変わるかどうかが鍵を握っていると思われた中、一足早い利上げです。
政策金利に連動する固定型金利は若干の金利上昇が見込まれますが、市場連動型の変動金利にはおそらく影響なく、また昨今は利用者の大半が変動金利型を選択していることから、現時点での住宅市場への影響は軽微でしょう。

しかし、今後さらなる段階的な利上げ、あるいは、もう金利が変わることを先読みして市場が動き始めてしまい、金利上昇へと向かうとなった場合はこの限りではありません。金利上昇幅が 1 %を超えるようなことがあると、今の住宅価格水準ではなくなる可能性は高いですね。現在の住宅市場のメインストリームである一次取得層(買い替えではなく、初めて住宅を購入する層)は家賃とローンとの比較をするので、金利が上がれば上がるほど同じ毎月返済額で借りられる額が減ってしまい、住宅取得へのパワーがそがれてしまう。そうなると、金利上昇に合わせて価格を下げないと売れなくなってしまいますから」

また、為替の動向もポイントだといいます。歴史的経緯から見ても、一方的にドル高という局面になると、ドル防衛策を行いドル安、日本から見たら円高に転じるということを繰り返してきました。世界の政治的な枠組みの変化、あるいは金融システム不安などが発生した場合は円高になる可能性も。

「そうなった場合、円高なのに株高、不動産高という、90年代バブルと同じような図式になる可能性もあります。しかし、たとえバブル化するケースであったとしても、あるいは全体として落ち込むような状況に転じたとしても、前述した三極化の構図がより顕著になると思います。現在の住宅市場の動向を踏まえると、買う側としては、都心・駅前・駅近・大規模・タワーといった不動産価値が落ちにくい物件を購入すれば、売却時のリスクヘッジになります」

不動産価格の頭打ち傾向から、都心・駅前・駅近・大規模・タワーなどの中古物件は今が売り時と捉えられる一方で、今後不動産バブルが起こる可能性もあるので、見極めが必要だ(画像/PIXTA)

不動産価格の頭打ち傾向から、都心・駅前・駅近・大規模・タワーなどの中古物件は今が売り時と捉えられる一方で、今後不動産バブルが起こる可能性もあるので、見極めが必要だ(画像/PIXTA)

引き続き、2023年も不動産市場好調は続く見込みですが、日銀総裁交代による金利の変化や為替の動きなどによっては、見える景色が変わる可能性も。それらを見極めながら物件を吟味して、賢く売り買いしましょう。

●取材協力
株式会社さくら事務所 不動産コンサルタント 長嶋修
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・メディア掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。2022年11月に『悩める売主を救う 不動産エージェントという選択』(幻冬舎)を出版。
引用元: suumo.jp/journal