今回のご相談者はKさん夫婦。夫のTさん、妻のAさんともに35歳の会社員です。
5歳の子どもがおり、現在は東京都文京区に家賃20万円のマンションを借りて住んでいますが、子ども部屋の必要性などを考え、同じ文京区内で新築マンションの購入を検討しています。
子どもの教育費を捻出しながら住宅ローンを返済していくには、家計も含めて、どのように設計すべきなのでしょうか?
住宅購入に悩みはつきませんが、「予算」は最も大切なポイント。年収の何倍までとか、頭金はこれくらい必要などいろいろな情報があふれていますが、人によって、物件によって、タイミングによって変わるため、実際にはみんなに通用するセオリーはありません。いったい「わたし」「わがや」にとってはいくらの物件を買えばいいのか? ローンはどう組めばいいのか? そんな疑問に「ホームローンドクター」である淡河範明(おごう・のりあき)先生がビシッとお答えいたします。
今回の登場人物と住宅購入予定
【Kさん夫婦の場合】
7000万円のマンションを文京区に購入したい夫婦の家計を分析!
淡河範明先生(以下、先生):今日は、文京区内にマンションを購入したいというご相談ですね。7000万円のマンションを購入されるご予定だとか。
夫:はい、子どもの教育を考えると、気になる小・中学校が多くある文京区に住み続けたいと思っていまして。
妻:ゆくゆくは子どもの留学や大学院への進学、また6年制の大学の入学も視野に入れて塾や習い事に通わせています。
先生:まず現在の家計の状況を教えていただけますか?
夫:収入は2人合わせた手取りが70万円ほどです。支出は家賃が20万円で、食費、水道光熱費等の生活費が17万円、小遣いが8万円、各種の保険が5万円など。子どもの教育費は幼稚園や習い事代で毎月10万円ほど掛かっています。毎月10万円程度とボーナスを住宅購入費用などの貯蓄に回しています。
先生:現時点で教育費に毎月10万円が掛かっているんですね。仮にお子さんが小学校~大学まですべて私立に通うことになると、一般的に学費だけで2000万円ほど掛かると言われています。さらに習い事や塾、一人暮らしやホームステイ、大学院や6年制の大学に通わせるとなると別途2000万円くらいは用意しておく必要があるかもしれません。
つまり4000万円が必要と考えると、お子さんの教育費に毎月20万円は確保しておく必要があります。
夫:そうですよね……。さしあたり家を買ったら、現在、住宅購入費用として貯蓄している分を教育費に充てようと考えています。
先生:基本的には、お二人がずっと正社員として働いて現在の収入を維持できるのであれば問題はないと思います。あとは老後の備えについても考えておきたいですね。
老後への備えも大切! どれくらいあれば余裕をもって老後を過ごせる?
先生:現在、毎月10万円を住宅購入費用として貯蓄されているとのことですが、住宅購入後にそれをお子さんの教育費に充てるとしたら、その他の用途に使える分は残らなくなってしまいますね。
お二人とも現在35歳ですから65歳に定年すると考えても、まだ30年間は働けます。第2回の記事で、老後資金の貯蓄額として3つのプランを挙げたのですが、お二人の現在の生活水準を考えると、65歳の定年退職時に3000万円は貯めておきたいところです。ボーナスを老後資金に充てるという方法もありますが、ボーナスは会社の業績や景気に左右されますから臨時収入と考え、突発的な出費に備えるお金、というくらいに考えておいたほうが良いでしょう。できれば他の生活費を見直すなどして、毎月8万円程度を貯蓄できるように検討してみてください。
妻:子どもの教育と家を買うことで頭がいっぱいで、老後のことはあまり考えていませんでした……。
先生:お子さんの将来を第一に考えるのであれば、定年退職後もお子さんに経済的に頼らずに済むように計画的に貯蓄しておきましょう。
教育費を確保しながら、住宅ローンを返済していくにはどう組めばいい?
先生:では、住宅ローンの組み方や返し方について考えていきましょう。Kさん夫婦の収入であれば、7000万円のマンションを買うことは可能です。頭金のご用意や返済計画についてはどのように考えていますか?
夫:頭金は親からの援助も受けて1000万円ほど用意できます。できるだけ早めに、遅くとも定年退職時にはローンを完済していたいので、6000万円の融資を30年で返していこうと思っています。
先生:では6000万円を借り入れ、返済期間はご希望の30年で住宅ローンを組んだ場合のシミュレーションを見てみましょう。お二人とも会社員で安定収入があるためペアローンを組むこともできますが、今回は返済期間による比較がしやすいよう夫のTさんが単独で住宅ローンを組んだ場合の試算をしました。下表を見てください。
今回はA信託銀行の【フラット35】Sを利用した場合と、金利キャンペーンを利用した場合を比較する形で試算しています。【フラット35】には、省エネやバリアフリーなど、一定の住宅性能を満たす場合に10年間、金利の優遇を受けられる【フラット35】Sがあります。そのため、当初10年間はA信託銀行のキャンペーン金利より、金利が低く抑えられます。購入を検討しているマンションが対象になるか、確認しておくといいでしょう。
11年目以降はA信託銀行のキャンペーン金利のほうが低くなりますので、総返済額としてはA信託銀行のキャンペーンのほうが50万円強、低くなります。今回比較している金利キャンペーンのように期間限定で展開しているもののほか、各金融機関ではさまざまな商品・プランを用意しています。それぞれで総返済額がどのように変わるかを試算して、比較検討することをおすすめします。
固定金利と変動金利、どちらで融資を受けるのが良い?
先生:現在の家賃は20万円とのことですが、住宅を購入すると固定資産税や管理費・修繕積立金などが発生するので、住宅ローン返済額とは別に通常、月に3万~4万円ほどかかります。先程のプランを見ると、30年での返済だと住宅費が重くなってしまいますね。先に話したように、教育費や老後資金の貯蓄のためにも、月々の支出は抑えたいところです。
そこで私からの提案ですが、次の表、返済期間を35年にしてはどうでしょう? そうすれば、毎月の住居費は管理費・修繕積立金を合わせても約20万~22万円となり、現在の家賃に数千円~2万円ほどを追加する形で済みます。
定年退職時に約1000万円の残債があることになりますが、今は低金利。ローンの残債よりも手元にある現金の額が多くなるようにしっかり残しておいて、定年退職後一括して返済するか、またはゆっくりローンを返済していけばいいのです。どうしても定年退職時までに返済したいということであれば、当初20年間、お子さんの教育費として捻出していた分や以降のボーナスを返済期間の残りの15年間で繰り上げ返済に回せば、定年退職時までかからずに完済できるでしょう。
夫:このシミュレーションは固定金利ですよね? 変動金利のほうが当面の金利が低いので、そちらも検討してみようと思っていたのですが、固定金利が良い理由はありますか?
先生:現在は低金利時代ですから、確かに変動金利を魅力的に感じる人も多いでしょう。ただ、固定金利は30年、35年間の出費を確定できるメリットがあります。借入金額の多い方はわずかな金利アップでも、毎月の返済額が一気に数万円単位で増える可能性もあります。繰り返しになりますが、教育費や老後資金を確保するためには、リスクよりも安心を取ることができる固定金利をおすすめします。
子どもの教育費を十分捻出しながらも、6000万円の融資を受けて返済したいというKさん夫妻。教育費は進路によっても変わってくるので、確実に貯蓄をするのであれば他の出費額を固定し、計画的に貯められるようにするのがいいようです。住宅費を計算するときは、修繕費や税金のことも含めて出費を把握する必要があります。
また、将来子どもに負担をかけないためには、同時に老後の生活費も準備しておかなければいけません。しっかりと毎月の家計項目と出費を把握し、定年退職時までに住宅ローンを完済するのか、毎月余裕をもって返済し、繰り上げ返済を随時行うことで完済を目指すのかも、夫婦で相談して決めていきましょう。
淡河 範明 ホームローンドクター
日本興業銀行、エル・ピー・エル日本証券を経て、住宅ローン専業コンサルティング会社であるホームローンドクター株式会社を設立。利用者の立場にたち、住宅購入時の資金計画、住宅ローンの選び方を新しい方法で提案している。著書に『住宅ローンを賢く借りて無理なく返す32の方法』『住宅ローン借り換えマジック』などがある。