3Dプリンターの家、国内初の実用版は23時間で完成!内装や耐震性は? フ…

3Dプリンターの家、国内初の実用版は23時間で完成!内装や耐震性は? ファミリー向け一般住宅も登場間近 長野県佐久市

(画像提供/セレンディクス)

「約300万円で購入できる10平米の3Dプリンター住宅」のプロトタイプが登場したと2022年5月に紹介しましたが、あれから1年、セレンディクス社が手掛ける商用日本第一号「serendix 10(スフィアモデル)」がついに長野県佐久市で完成しました。その全貌をお届けします。
整骨院の大きな看板があった場所に3Dプリンターの家を設置。今後はこの球体が看板がわりに(画像提供/セレンディクス)

整骨院の大きな看板があった場所に3Dプリンターの家を設置。今後はこの球体が看板がわりに(画像提供/セレンディクス)

10平米の3Dプリンターの家。施工時間は22時間52分!

北陸新幹線が停車する佐久平駅から徒歩7分、大通りに面した整骨院の敷地内に立つ、球体のような白い物体。通りを歩く人も信号待ちの車の人も、興味深そうに眺めています。それもそのはず、数日前までなかった近未来的な物体が、突如現れたのだから。
建物の正体は、商用3Dプリンターハウスの日本第一号棟。施工時間は1日8時間×3日、計24時間を予定していましたが、実際に完成までに要したのはわずか22時間52分でした。

手がけたのは、セレンディクス(兵庫県西宮市)。「30年もの住宅ローンは現代の経済環境に即していない。車を買うような感覚で、ライフスタイルやライフステージに応じて、家を自由に買い替えられる社会を」と、これまでの家づくりの概念を根本から考え直し、低コストで短納期の3Dプリンターハウスの量産をめざす企業です。

令和の一夜城ともいえる3Dプリンターハウス「serendix 10(スフィアモデル)」は、床面積10平米、価格は330万円です。同社COOの飯田國大(はんだ・くにひろ)さんによると、「2022年秋に6棟を一般販売したところ、国内外から大きな反響があり、購入申し込みは30件ほどありました。その完売したうちの1棟が、今回の佐久市の物件です」
夢の日本第一号をもぎとったのは、全国に介護・医療施設を展開するカスケード東京。同社が運営する整骨院の敷地内に建築し、特別な施術を行うプライベートサロンとして利用する予定だといいます。

2日目、施工開始から10時間ほどたったころ。既に完成形が見えています(撮影/塚田真理子)

2日目、施工開始から10時間ほどたったころ。既に完成形が見えています(撮影/塚田真理子)

セレンディクスCOO飯田さん。初回販売数を6棟にしたのは、「かつてトヨタが紡績業から自動車産業に転身したとき初めて販売した車が6台だったそうです。問題点があったら教示してくれる、理解のあるお客様に協力いただいています」(撮影/塚田真理子)

セレンディクスCOO飯田さん。初回販売数を6棟にしたのは、「かつてトヨタが紡績業から自動車産業に転身したとき初めて販売した車が6台だったそうです。問題点があったら教示してくれる、理解のあるお客様に協力いただいています」(撮影/塚田真理子)

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NASAの火星移住プロジェクトを手がける建築家がデザイン

serendix 10はスフィアモデルという名前のとおり球体で、直径3.3mで広さ10平米、天井高は4m。NASAの火星移住プロジェクトを進める建築家、曽野正之氏とオスタップ・ルダケヴィッチ氏による、近未来的なデザインが目を引きます。設計は、日本、アメリカ、オランダ、中国の企業コンソーシアム(共同企業体)が手がけました。

「風を逃す球体の建物形状は、風速140mにも耐えうる自然災害に強い構造。火星への移住をめざすNASAのプロジェクトでも採用されており、物理的に最強の形状といえます。従来の工法ではコストがかかるこうした曲線構造に対応できるのも、材料を積み重ねて建設する3Dプリンターの得意とするところです」と、飯田さんは話します。

三角形の窓がこのあと取り付けられます。30cm以上という壁の厚さから、遮音性、気密性も期待できます(撮影/塚田真理子)

三角形の窓がこのあと取り付けられます。30cm以上という壁の厚さから、遮音性、気密性も期待できます(撮影/塚田真理子)

コンクリート壁の厚さは30cm以上、躯体全体の重量は約20tもあり、まるでビルのように頑丈な造り。プロトタイプでは鉄筋などの構造体を使わずとも、十分な安定性と強度を実現しています。ただし、建築基準法で指定された鉄筋などの材料を使わない構造物は、個別に国土交通大臣の認定が必要なため、大臣認定の取得に向けて現在申請に着手しているところだそうです。

鉄筋を組み込んで日本の現行法に準拠

ちなみにserendix 10の実用棟は、当初、政令指定都市から90分のエリア内に設置することを想定していました。冒頭でもふれた、10平米300万円、車を買うように家を所有できるように、というコンセプトゆえ「土地代が安く、かつ必要なときに都市に行きやすい距離」というのがその理由です。
ところが、第一号に決まった佐久市の土地は条件が異なり、都市計画区域内のため建築確認申請も必要です。現段階では大臣認定が未取得だったことから、建築基準法に則り、3Dプリンターで出力したコンクリートの間に鉄筋を入れて構造設計をし直すことに。

躯体には断熱材も組み込み、日本より厳しいオランダの断熱基準をクリア(撮影/塚田真理子)

躯体には断熱材も組み込み、日本より厳しいオランダの断熱基準をクリア(撮影/塚田真理子)

構造設計は、駅やスタジアム、ホテルなどさまざまな規模の建築物を手がけるKAPの桐野康則さんが担当。鉄筋の柱を4本入れ、上に鉄筋の梁をつけることで耐震強度を高め、建築基準法に適合させているといいます。
「KAPを含め、現在205社のコンソーシアムの協力を得て、社会実装を重ねながら研究開発を進めています。セレンディクス1社では到底できませんが、課題ができるたびにさまざまな企業が声を上げてくれ、手を取り合って解決に向けて進んでいけるのです」(飯田さん)

工場で出力して輸送、現地で組み立てるプレキャスト工法を採用

ところで、3Dプリンターハウスはどんな手順で建築しているのでしょうか。
「セレンディクスはデジタルデータをつくる会社です。まず、設計データをつくり、最先端のロボット工学による3Dプリンターにデータを送信。そのプリンターで出力した4つのパーツをプレキャスト素材として輸送し、現場で組み立てて施工しています」と飯田さん。

serendix 10は開発と普及のスピードを速めるため、ヨーロッパ、中国、韓国、日本、カナダの3Dプリンターメーカーに出力を依頼。昨年、世界5カ国で同一データでの同時出力に世界で初めて成功し、ビジネスモデルを確立しつつあります。佐久市をはじめ初回販売した6棟は、それぞれの国で出力したものを建てる場所まで住宅輸送会社が輸送し、施工する計画なのだそうです。

今回使用したのは、中国の工場にある3Dプリンター。あらかじめ4つのパーツに分けて出力します。10平米のserendix 10の出力に要した時間は約14時間(映像提供/セレンディクス)
自動で3Dプリンターがすべての作業を行うので人件費が削減できます(映像提供/セレンディクス)

3Dプリンターを現場に運び、出力しながら施工するのかと思っていましたが、「将来的にはそれも可能だと思います。ただ3Dプリンターは精密機械なので、輸送の際に故障してしまうリスクがあります。また現場で雨が降ってしまえば出力したモルタルが乾かず、施工時間が大幅に遅れてしまいます。現段階では、工場で安全に出力したパーツを輸送し、現場で組み立てながら、鉄筋を組み込むという手法をとっています」

今回は、中国WINSUN社の3Dプリンターを使用したとのこと。ところで、プリンターの自社開発も考えているのでしょうか?
「世界の会社と最新情報を共有することが大切だと思っています。汎用化する3Dプリンターは自社でつくらず、競合しないから、情報共有が可能なんです」と飯田さん。日本国内の協力企業では愛知県小牧市をはじめ現在5台の3Dプリンターを導入しており、来年にはさらに12台に増やす予定。今年下半期からは、日本で出力したものをメインに使用していきたいと話します。

20t以上もある躯体パーツを運ぶのには大きな負荷がかかるといい、高い輸送技術が必要。現在は10tトラックで輸送しています(画像提供/セレンディクス)

20t以上もある躯体パーツを運ぶのには大きな負荷がかかるといい、高い輸送技術が必要。現在は10tトラックで輸送しています(画像提供/セレンディクス)

単一素材で複合的な機能を持たせ、資材コストをカット

手前に置いてあるのが屋根のパーツ。プロトタイプでは屋根も3Dプリンターで出力し一体成形していましたが、今回の工法ではGRC(ガラス繊維強化セメント)で作成したものをのせる形に(撮影/塚田真理子)

手前に置いてあるのが屋根のパーツ。プロトタイプでは屋根も3Dプリンターで出力し一体成形していましたが、今回の工法ではGRC(ガラス繊維強化セメント)で作成したものをのせる形に(撮影/塚田真理子)

3Dプリンターの活用で人件費が抑えられるのに加え、外壁や内壁、天井、床などを単一素材でつくれることも、資材の大幅なコストカットにつながります。serendix 10には、木材価格の高騰や工期の延長といったウッドショックの影響を受けない、低コストで住環境に適したコンクリートを用いています。「例えば、出力するコンクリートには硬化促進剤を使っているのですが、コンソーシアム企業の中には化学系メーカーも3社協業しており、こうした素材開発にも協力いただいています」(飯田さん)

鉄筋の間にモルタルを入れているところ。このあと屋根を設置し、上棟式も行われました(撮影/塚田真理子)

鉄筋の間にモルタルを入れているところ。このあと屋根を設置し、上棟式も行われました(撮影/塚田真理子)

青空に映えるコンクリートの球体。なだらかな曲線が描けるのは3Dプリンターならでは(撮影/塚田真理子)

青空に映えるコンクリートの球体。なだらかな曲線が描けるのは3Dプリンターならでは(撮影/塚田真理子)

内外装とも、積層痕をあえて残した意匠に(撮影/塚田真理子)

内外装とも、積層痕をあえて残した意匠に(撮影/塚田真理子)

見た目としては、ソフトクリームのような積層痕が3Dプリンターハウスの大きな特徴です。痕を残さずなめらかに均(なら)す技術もあるそうですが、3Dプリンターを象徴するデザインゆえ、あえてそのままにしているのです。
プロトタイプの施工時には、塗装に非常に時間がかかったことから、今回は出力後に塗装を施してから輸送。現場では、組み立てたあと最後に汚れた部分のみ塗装し直し仕上げることで、よりスピーディーな施工が可能になりました。

「すべてにおいて、社会実装を進めながら課題を見つけ、クリアしていく。そのために協業企業にサポートをお願いしています。またお客さまにも協力をお願いしている段階です。3Dプリンターハウスはコンセプトも技術もまったく新しいもの。今回の6棟はそれを理解してくださる方に購入いただけています」と飯田さん。施主も含めみんなで新しいものをつくっている感覚に、こちらもワクワクさせられます。

施工は現場に近いエリアのコンソーシアム会社に依頼するといいます。今回はナベジュウ(群馬県太田市)が担当。ナベジュウ代表の渡辺謙一郎さん(左)と飯田さん(撮影/塚田真理子)

施工は現場に近いエリアのコンソーシアム会社に依頼するといいます。今回はナベジュウ(群馬県太田市)が担当。ナベジュウ代表の渡辺謙一郎さん(左)と飯田さん(撮影/塚田真理子)

内装イメージ。4mの天井高が開放感をもたらします。別途内装工事を経て、プライベートなサロンとしてオープンする予定(© Clouds Architecture Office)

内装イメージ。4mの天井高が開放感をもたらします。別途内装工事を経て、プライベートなサロンとしてオープンする予定(© Clouds Architecture Office)

49平米と70平米の個人向け住宅もまもなく登場

3Dプリンターハウスの今後の展開も気になるところです。
まずはserendix 10の初回販売分残り5棟を順次施工していくといいます。次は岡山県内で、使い道は贅沢にも、飼っているフクロウのための家だとか!どんな空間ができあがるのか楽しみです。

並行して、個人向け3Dプリンター住宅「フジツボモデル」に取り組んでいます。フジツボモデルは、3Dプリント技術の第一人者である慶應義塾大学環境情報学部の田中浩也教授率いる慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センターとの共同プロジェクト。
グランピング施設や3坪ショップ、離れなどの用途に限られる10平米のserendix 10に対して、49平米のフジツボモデルは水回り設備を完備した「住宅」仕様。3Dプリンターハウスで生活することができるのです。1LDKの平屋で、価格は550万円です。

住居としての役割を担うフジツボモデル。水回りの設備も付いて550万円(慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター)

住居としての役割を担うフジツボモデル。水回りの設備も付いて550万円(慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター)

(慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター)

(慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター)

間取りは1LDK。天井が高く快適なコンパクト平屋は二人暮らしに最適(慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター)

間取りは1LDK。天井が高く快適なコンパクト平屋は二人暮らしに最適(慶應義塾大学KGRI環デザイン&デジタルマニュファクチャリング創造センター)

「若いときに購入した2階建て、3階建ての家は年齢を重ねると住みにくくなるし、リフォームするとなると1000万円以上かかってしまう、という声も聞きます。また、賃貸住宅によっては、高齢者の入居をさまざまな理由をつけて断ったりするケースも。フジツボモデルは、そういった60代以上の夫婦2人のニーズに応えられる住宅です」と飯田さん。1LDKのコンパクトな平屋は、子どもが独立して部屋数は必要ない、という人の住み替え先にもぴったりです。既に3000件もの問い合わせがあり、400件を超える購入意向が寄せられているそうで、注目度の高さがうかがえます。

フジツボモデルの出力は、コンソーシアム会社である百年住宅の愛知県小牧工場で行われています(画像提供/セレンディクス)

フジツボモデルの出力は、コンソーシアム会社である百年住宅の愛知県小牧工場で行われています(画像提供/セレンディクス)

さらに年内には、家族で住める70平米の住宅も開発するといいます。こちらの設計はserendix 10と同じ建築家によるもので、デザインはまだ非公開ですが、とても近未来的な佇まいだそう。「電気自動車も、従来のガソリン車とはデザインががらりと変わりましたよね。3Dプリンターの家も、従来の住宅とは一変するのが自然ではないでしょうか」という飯田さんの言葉に大きく納得しました。

こうした社会実装を積み重ね、最終的にめざしているのは、「100平米300万円の家」とのこと。何十年もの住宅ローンを組まずに家を持つ。わずか数年後には、そんな近未来な住まいを実現する可能性に満ちた3Dプリンターハウスに、新しい時代の幕開けをヒシヒシと感じずにはいられません。

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●取材協力
セレンディクス
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引用元: suumo.jp/journal