島でのリモートワークってどう?「ITアイランド」奄美大島と姫島に聞いてみた

島でのリモートワークってどう?「ITアイランド」奄美大島と姫島に聞いてみた

(写真提供/田中良洋さん)

ここ数年で「働き方改革」という言葉が浸透し、今後もリモートワークを導入する企業は増加する見込みだという。今は仕事によってはインターネットや移動手段・時間が確保できればどこでも仕事できる時代。Uターン・Iターン・移住・二拠点生活など、さまざまな形で仕事・生活の拠点を都市部から地方へ変更・検討している人もいるのでは。その中でも、交通面・仕事における環境面などでハードルが高いと思われているのが離島だろう。
しかし、現在はそんな離島でこそ、自治体を挙げて環境整備・リモートワークを推進しているところも多いようだ。今回は鹿児島県奄美大島と大分県姫島の話を聞いてみた。

鹿児島・奄美大島が目指すのは「フリーランスが最も働きやすい島」

東京から飛行機で2時間10分。鹿児島の南に位置する人口約6万1000人の島・奄美大島は、日本全国の離島の中でも3番目に大きな島。温暖な気候で、美しい海や原生林などを持つことから、観光地としても人気の島だ。

(写真提供/奄美市)

(写真提供/奄美市)

奄美市では、「2020年までに200名の フリーランスを育成すること、50名以上のフリーランス移住者を呼ぶこと」を目標に、2015年より「フリーランスが最も働きやすい島化計画」を推進。ランサーズ、GMOペパボ、Schoo、PIXTAなどの企業とも協業している。
「奄美大島に位置する奄美市は経済・産業のマーケットの規模は小さく、都会の巨大なマーケットまでは物理的な距離があるといった地理的不利性があります。その不利性を克服する産業として、情報通信産業の振興を重点分野に位置づけ、各施策に取り組んでいます。技術力をもったU・Iターン者が年々増えていることから、元々の住民も含めクラウドソーシングで都会の仕事をできる環境を整備する必要があると考えたためです」(奄美市商工観光部商工情報課 森永さん)

フリーランスの移住者を呼ぶための施策も積極的に行っている。
市内のインターネット環境の整備はもちろん、住民のフリーランス育成を推進するための奄美市オリジナルの教育プログラム「フリーランス寺子屋」などのイベント開催、住宅などの移住支援やコワーキングスペースの提供など、「フリーランスが最も働きやすい島」にするために必要な支援を、島のフリーランサーとともに検討・実行しているという。

イベント「2018観光フォトライター講座」の様子(写真提供/奄美市)

イベント「2018観光フォトライター講座」の様子(写真提供/奄美市)

奄美大島でドローン撮影・写真撮影・映像撮影・Webライター・予備校スタッフなどを行う田中良洋さんも、2017年に移住したフリーランサーだ。移住前も東京・大阪でフリーランスとして活動していたが、病気をきっかけに移住を考えはじめたという。

田中良洋さん(写真提供/田中良洋さん)

田中良洋さん(写真提供/田中良洋さん)

「ずっと都会で事業をしていましたが、体調を崩し、目の病気になりました。幸い完治はしましたが、スマホを見るのも太陽を見るのもつらく、寝てばかりの生活の中で『本当は何がしたいんだろう?』と思い悩んでいました。そのときふと浮かんだのが『島に住みたい』ということ。観光で与論島に行ったことはあり、もう一度行きたいと思っていたところ、たまたまネットで島おこしインターンシップというプログラムを見つけて参加。1カ月半与論島で生活しました。実際にやってみて、島の生活の魅力を改めて感じると同時に、奄美群島が面白いと感じました。その後、群島のいろんな地域を調べる中で奄美市はフリーランスの支援を行っていることを知ったのと、奄美市での予備校の仕事が見つかったのでここを選びました」

移住してまず心配なのが、家のことや今後の仕事のこと。田中さんは自治体の施策を利用し、コミュニティへの参加・事業の育成を行っている。
「家がなかなか見つからなかったり、生活費や家賃が思っていた以上にかかるのでどうやって仕事を広げていこうか不安はありました。けれど、奄美市が提供している『フリーランス寺子屋』という講座に参加し、フリーランスの知り合いができたり人づてに仕事をいただいたりして、不安は徐々に解消されていきました。現在もホームページ制作をしているフリーランスの人とよく一緒に仕事をさせてもらっています。仕事の打ち合わせをしたり、一緒に飲みに行ったり遊びに行ったりして情報交換をしています」

それでは、実際に移住して仕事や生活はどのように変わったのだろうか。
「もともといろいろなことをやりたがる性格だったので、島での働き方は合っていたと思います。都会では、ひとつの分野に絞って専門性を高めていかないといけないと思っていましたが、島では幅広くさまざまな仕事が求められます。驚きや不安もありますが、機会があることはありがたいですよね。ドローンでの撮影・素材映像の提供をしていますので、奄美ではどこを撮影しても絵になるのもメリットです。仕事で疲れたときや煮詰まったときに、すぐに海の見えるところでリフレッシュできるのはとてもいいと感じています。

ヒカゲヘゴ(写真提供/奄美市)

ヒカゲヘゴ(写真提供/奄美市)

笠利サトウキビ畑(写真提供/奄美市)

笠利サトウキビ畑(写真提供/奄美市)

生活面では、奄美市は思っていた以上に便利なので、普段の生活は大きく変わっていません。満員電車に乗らずにすむようになったことや、飲み会に無理矢理参加しなくてよくなったことは精神衛生上よかったと思います。休日の過ごし方は大きく変わりました。奄美大島の自然の中で遊べるので、今まで考えられなかった経験ができています。休日は友人の船に乗り、海に行ってマリンレジャーをしています」

大分県・姫島は2018年から本格化!「姫島ITアイランド構想」

姫島(写真提供/姫島ITアイランド運営事務局)

姫島(写真提供/姫島ITアイランド運営事務局)

今年より新たな動きを見せる離島がこちら。
大分県北部。温暖な気候の瀬戸内海に浮かぶ人口約2000人の島・姫島。水産業が主要産業のこの島で、2018年1月から「姫島ITアイランド構想」が本格化した。水産業の低迷、若い世代を中心に村外への人口流出などによる人口減少が進む中での雇用創出、離島を舞台にした新しい雇用の形を創り地元の活力を高めたいという自治体の想いから生まれたプロジェクトだ。

お試しリモートワークの様子(写真提供/姫島ITアイランド運営事務局)

お試しリモートワークの様子(写真提供/姫島ITアイランド運営事務局)

この「ITアイランド構想」には、ふたつの取り組みがある。
ひとつは、IT企業や人材を呼び込むことで「離島×IT」の可能性を広げる取り組み。旧校舎を活用し、企業が入居できるオフィスやコワーキングスペースを設置した「姫島ITアイランドセンター」を整備。すでに2社が姫島にサテライトオフィスを設置し、稼働しているという。もちろん、都心と変わらない通信環境も整備済だ。始まったばかりのプロジェクトでフリーランサーの移住者はまだいないそうだが、「住居探しのサポートや広報活動も本格化していきたい」と姫島ITアイランド運営事務局の担当者は話す。

姫島ITアイランドセンター(写真提供/姫島ITアイランド運営事務局)

姫島ITアイランドセンター(写真提供/姫島ITアイランド運営事務局)

ふたつめは、未来のIT人材の育成・創出・定着を目指す取り組み。学生を対象としたプログラミング教室や住民のITに対する関心を高めるためのIT落語寄席などのイベントを開催したり、電気自動車を活用したカーシェアリングシステムや村営フェリーの運航状況通知システムを構築したりと、さまざまな取り組みを実際に行っている。

ITアイランドセミナーの様子(写真提供/姫島ITアイランド運営事務局)

ITアイランドセミナーの様子(写真提供/姫島ITアイランド運営事務局)

離島での暮らしは、生活にもうるおいが生まれそうだ。通勤時間のストレスはもちろんなし。島内には保育所(待機児童数ゼロ!)・幼稚園・小学校・中学校や病院はもちろんある。治安もいいので、家族での移住も安心だろう。海や山などの自然が近く、海産物や野菜なども豊富。平日は通勤ラッシュもなく夜遅くまで仕事をする文化もない。休日は海、キャンプ、温泉など、自然の恵みをふんだんに受けた暮らしができそうだ。

姫島のビーチ(写真提供/姫島ITアイランド運営事務局)

姫島のビーチ(写真提供/姫島ITアイランド運営事務局)

ジオクルーズの様子(写真提供/姫島ITアイランド運営事務局)

ジオクルーズの様子(写真提供/姫島ITアイランド運営事務局)

離島でのリモートワークは、もちろん利便性の面では都市部のほうが上かもしれない。けれど、豊かな自然の残る島だからこそ得られることも多いだろう。ライフスタイルや目指すもの・求めるものによっては、離島への移住・二拠点生活は最良の選択肢になるかもしれない。場所によってはお試し体験を実施しているところもあるので、気になる人はチェックしてみては。

●取材協力
>奄美市「フリーランスが最も働きやすい島化計画」公式サイト
>ゆったり×最先端リモートワークのすすめ「姫島ITアイランド
引用元: suumo.jp/journal