無印良品やスノーピークも参入! 小屋やタイニーハウスは憧れのライフスタイルに
「やはりコロナ禍の影響で、小屋の存在感、注目度は増しているように思います」と話すのは、約10年前から日本の小屋・タイニーハウス(小さな家)文化を牽引してきたYADOKARI株式会社の遠藤美智子さん。アメリカでは、タイニーハウスは2008年のリーマンショック以降にライフスタイルを見直した人が中心となって広まってきましたが、日本では東日本大震災を経験した2011年以降、徐々に広まってきました。特に2020年以降、リモートワークやテレワークが普及し、インターネット環境が整っていればどこでも働ける人が増えたため、「都会にいる必要はない」「自然のなかで暮らしたい」という声が増加、「小屋を郊外や地方に構えて2拠点生活をしてみたい」というニーズをよく聞くようになったそう。
「小さな家全般のことをタイニーハウスといい、弊社でも複数取り扱っていますが、先日もトレーラーを改造したトレーラーハウスのお引渡しがありました。土地代と中古トレーラーハウス代合わせて600万円以内で収まりました。都内に拠点を持ちながら、週末は愛犬といっしょに小屋で暮らしたい。今の暮らしにちょうどよい『選択肢』として定着しているように思います」と遠藤さんは続けます。
「先日、弊社で扱う小屋を一堂に展示する一般向けのイベントを湘南で開催したのですが、非常に多くのお客さまがいらっしゃいました。子どもたちも来場していて、とても和やかな雰囲気でした。今まで対企業として小屋を扱うことが多かったので、小屋への関心の高さ、広がりに私たちが驚いたほどです」と話すのは、同じくYADOKARIの齊藤佑飛さん。
こうした小屋人気の背景には、無印良品やスノーピーク(建築家の隈研吾氏デザイン)、カインズホームなど、さまざまな業種からの参入が続いたことも大きく影響しているそう。
「デザイン性や価格など、さまざまな特徴を持つ小屋が増えました。バリエーションも豊かになり、ますます個人の好みに合った小屋が選べるようになっています」と遠藤さん。
移動と定住、インドアとアウトドア。小屋にも派閥がある!?
固定の場所で暮らすタイプの小屋に加えて、今では、バンや軽自動車などを改造して移動しながら暮らす「バンライフ」や「モバイル小屋」も増えています。そこにはユーザーの志向やタイプに少し違いがあるそう。現在よく耳にするようになった「小屋」の種類とタイプを解説してもらいました。
■スモールハウス(小屋)、タイニーハウス
広さ10~20平米弱の小さな住まい。住まいになるため、基礎の上に建てます。移動させずに1カ所に定着するため、周囲で畑を耕したり地元の人と交流したりする人もいます。無印良品やスノーピークから販売されている商品のほか、組み立てキットなど、さまざま商品が登場しています。今後は3Dプリンターの家も登場するといわれています。
■コンテナハウス、トレーラーハウス
貨物コンテナを小屋として改造したものが「コンテナハウス」、さらに自動車で牽引できる家が「トレーラーハウス」です。「タイニーズ 横浜日ノ出町」の小屋は「トレーラーハウス」にあたります。バス・トイレがあり、人が暮らしを営めますが、法律上は車両です。移動もできるのが特徴です。
■キャンピングカー・バン
自動車の居住性を高めたのが「キャンピングカー」や「バン」です。基本的には車の延長上にあるため、居住面積は小さめです。アウトドア好きな人が多く、旅をしながら暮らしたい、いろいろなところに行きたいという、「移動」したい人“バンライファー”に向いている形態です。お風呂やトイレがついていないこと、また車中泊の場所には注意が必要です。
★番外編
■サウナトレーラー
サウナの本場・フィンランドでは、自動車で牽引できる「サウナトレーラー」があるそう。バカンスの時期になると自宅の車につないで別荘に持っていき、好きな場所でサウナを楽しむといった使い方です。きれいな川、湖がある場所に移動すれば、最高の水風呂で“ととのう”ことは間違いなさそう。YADOKARIで販売をはじめたので、これから一気に盛り上がりそうです。
なるほど、移動を重視するアクティブ派は「バン」「キャンピングカー」、好みの場所に定住したい派は「小屋(タイニーハウス)」、「コンテナハウス」(移動はできるけれど、基本は1カ所で過ごす)といえるのかもしれません。「生き方」や「好きな暮らしのタイプ」にあわせて小屋が選べるようになっているあたり、小屋・タイニーハウス文化の広がりを感じます。
オフグリッドにコミュニティ、まだまだ可能性は広がる
「今まで弊社では、主に企業と組んで、小屋のプロデュースや土地の活用法をご紹介・提案してきました。シェアオフィス、コワーキングスペース、最近ではビジネスの側面からトレーラーハウスの引き合いがとても多いですね。ただ、このコロナ禍で大きく価値観が変わり、都会で暮らす意味を問い直す人や、住宅ローンや家賃にしばられない暮らしがしたい、という人がさらに増えたように思います。広さや駅からの距離、家賃などといった今までの物件の選び方とは異なる価値観を提案していけたらいいですね」と遠藤さん。
「もともと住まいって、広さよりも、どう過ごすかのほうが大事なはず。僕自身も今は小さな家に暮らしていて、広い家にあまり興味はありません(笑)。自分の身の丈にあったサイズの家が心地よいと思うんです。必要なら拡張したり、縮小したりする。柔軟な暮らし方ができるんだよと伝えていけたらいいですね」と齊藤さん。“うさぎ小屋”のようだと揶揄されてきた日本では、「広さこそ、豊かさ」と考えていた時代が続いていたわけですが、その価値観は今、大きく変わったようです。
では、今後小屋がさらに普及するうえで課題となっているもの、次の展開などについて聞いてみました。
「現状の課題のひとつは、ローンが組みにくいことがあります。小屋は住宅ローンのような超低金利ローンは利用できないのです。お金を借りるにしても金利が高くなってしまうのは、悩ましいですね。今後の展開や展望でいうと、やりたいことが多くて。自然エネルギーを活用したオフグリッドハウス(外部の電力と切り離され、独立した住まい)や、小屋で暮らす人が集まるコミュニティ、災害発生時の仮設住宅など、アイデアはたくさんあるので、ひとつずつ実現していけたらいいですね」(遠藤さん)
以前、YADOKARIが提唱する「ゼロハウス構想」(住宅ローンや家賃などの金銭的負荷を減らして可処分所得や時間を人、文化の醸成に再投資する)という考え方を聞いたとき、正直、筆者は「理想はわかるけれど、実際にはね……?」と疑っていました。ただ、小屋の価格が手ごろになり、空き家や活用しにくい土地が増えてきたこと、どこでも仕事ができるようになっているなどの時代の変化を考えたときに、「ゼロハウス、無理じゃないかも」と思うようになりました。
暮らし方も働き方も大きく転換している今なら、好きな場所で、小さく豊かに暮らすが、「リアル」な選択肢になりつつあります。小屋暮らしに興味があるのであれば、今が恰好のタイミングかもしれません。