2022年、住宅市場どう動く?  コロナ禍で「売りも買いも高い」から変化か

好調は継続する? 2022年の不動産市場の行方

(画像/PIXTA)

2020年4月の緊急事態宣言下において一時は半減した取引が2021年の緊急事態宣言明けに回復。コロナ以前をしのぐ勢いをみせましたが、2022年の不動産市場はどうなっていくのでしょうか。個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションを行うさくら事務所会長の長嶋修さんに、今後の展開を伺いました。

不動産市況好調もエリアは限定的。2022年も「3極化」が進む

2021年10月に首都圏の新築マンション発売平均価格が1990年バブル期を超え過去最高を記録しました。「2021年を一言でいうと、住宅市場絶好調の年だった」と長嶋さんは振り返ります。

「コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言があった2020年には、不動産市場大暴落が始まるんじゃないかという話もありましたが、2021年は、需要が息を吹き返して順調に取引数が伸びました。特に、立地の利便性の高いところを中心とした取引が非常に活発で、勢いが衰えることなく一年が終わりました」(長嶋さん。以下同)

さくら事務所会長・不動産コンサルタントの長嶋さん。さまざまな経済紙に不動産の最新事情を寄稿している(画像提供/さくら事務所)

さくら事務所会長・不動産コンサルタントの長嶋さん。さまざまな経済紙に不動産の最新事情を寄稿している(画像提供/さくら事務所)

現在の不動産市場を支えているのは歴史的な低金利だ、と長嶋さんは言います。1990年代のバブル時は、住宅ローン金利は7%~8%でした。今は固定金利だと1%前半、ネット系ローコスト銀行の変動金利だと0.289%です。つまり1億円借りても 期間35年ボーナス時加算なしで、月25万円の返済額になります。

「さらに、リモートワーク(在宅勤務)の普及や自粛により外出の機会が減少して、より広く、より快適な環境を求める方向に進みました。低金利により、賃貸と同じかそれより少し高いくらいの月々の支払額で、グレードの高い物件に住み替えられるとあって、一次取得者層の動きが活発化したのです」

不動産市場の活況は、2022年も続くのでしょうか。

「当分低金利が続く見込みなので、この流れは変わらないでしょう。ただし、売買は、都心・駅前・駅近・大規模・タワーという条件にあてはまる、利便性が高く、値が張る物件に集中しています。今の不動産購入者層は共働き世帯が中心。自動車保有比率は、年々下がっているため交通の便は重要です。時間が大事だと考える人が増えているのです」

一部価格が上昇するエリアがあっても、ほとんどは、緩やかに下落の方向、郊外や地方ではマイナスになるエリアが出てくると予想され、2021年に引き続き、三極化が加速する見込みです。

価格が上昇するエリア、緩やかに下落するエリア、マイナスになるエリアの三極化が続く(画像提供/さくら事務所)

価格が上昇するエリア、緩やかに下落するエリア、マイナスになるエリアの三極化が続く(画像提供/さくら事務所)

駅から徒歩10分以内、駅直結のマンションの人気が高い。バス便になると評価が落ちる(画像/PIXTA)

駅から徒歩10分以内、駅直結のマンションの人気が高い。バス便になると評価が落ちる(画像/PIXTA)

新築の不足で中古市場が活況だが、在庫が増える兆しも

コロナ以降、中古住宅市場の取引が活発でした。2022年もこの流れは続きますか。

「コロナ以降、新規購入希望者が殺到しましたが、需要に対して新築の供給や在庫が少なく、希望者が中古住宅市場に流れました。けれども中古住宅市場も、『売るも買うも高い』状況。広さや居住性に満足している持ち家層は、様子見で売り控えている状況でした。しかし、2021年の後半から気になる兆しがありました。売れ行きがやや鈍化し、新築の在庫がほんの少し増えたのです。今後注視していく必要がありますが、このままいけば、一方的な売り手市場は収まっていくのかもしれません」

都心3区中古マンションの「在庫数」と「成約平米単価」(資料/東日本不動産流通機構)

都心3区中古マンションの「在庫数」と「成約平米単価」(資料/東日本不動産流通機構)

首都圏の中古マンション件数の推移(資料/東日本不動産流通機構)

首都圏の中古マンション件数の推移(資料/東日本不動産流通機構)

住宅ローン減税の制度変更の影響はあるでしょうか。
今までは、住宅ローンを借り入れて住宅を取得する場合に、取得者の金利負担の軽減を図るため、毎年末の住宅ローン残高または住宅の取得対価のうちいずれか少ない方の金額の1%が10年間に渡り所得税の額から控除されていました。

「昨年末に出された税制改正大綱によると、1%が0.7%になり、税金戻り額が少し減る方向です。年収は上限3000万円だったのが2000万円にするとしています。期間は、原則10年だったのが13年に延びるものの、総額でみるとこれまでに比べ不利な改正ではありますが、住宅市場への影響はほとんどないと思います」

好調は続くのか。不動産選びのポイントと買い時売り時は

米国ではインフレ沈静化の意図からテーパリング(中央銀行が市場に供給する資金の量を増やすことで、金融市場の安定や景気回復を図る政策「量的緩和策」を縮小していくこと)や金利上げが見込まれていますが、2022年の日本の住宅市場に影響のある経済の動きはありますか。

「日本はデフレが続いていますから、金利を上げる、上がるという状況にはないと思われます。低金利が継続するのであれば、引き続き住宅市場は好調が続くでしょう。日経平均株価が安泰である限り、好立地かつ高額物件や郊外で値ごろ感のある新築・中古・マンション・一戸建てなどの販売は堅調だと思います」

都心3区中古マンション「売り出し価格」と「成約価格」(資料/東日本不動産流通機構)

都心3区中古マンション「売り出し価格」と「成約価格」(資料/東日本不動産流通機構)

そのような状況で、住宅を売りたい・買いたい人はどのような選択をすればよいでしょうか。

「現金で購入する場合は、もっと下がるかどうか様子を見てもいいのでは。融資を組み合わせて購入する場合、今のような歴史的な低金利は一生続きません。圧倒的な低金利を利用して購入した方が有利だと思います。一方で利便性が悪く建物や間取りに難があるものについては、一部では『0円でも売れない』といった物件も増加する見込み。下落が続くと予想されますので、今売るのが一番高値だと思われます」

2008年のリーマン・ショック前に400兆円前後だった日米欧の中央銀行の資産規模は、コロナ対策などもあり、5倍の2000兆円を超える規模に。長嶋さんは、「1990年を上回るバブルが発生する可能性がある」と予想しています。

「ただし、都心・大都市部、駅前・駅近、大規模、タワーといったワードに代表される物件に限定されます。購入する場合は、中長期的に利便性や災害可能性を考慮した立地、耐震性や省エネ性など建物の基本性能が優れた物件を選択したほうがいいですね」

不動産市場好調は続きますが、在庫状況改善や資産バブルなど気になる兆しも。価格が高騰している背景やエリア、物件の特徴などを吟味して、賢く売り買いしたいものです。

●取材協力
株式会社さくら事務所 長嶋修
業界初の個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクション(住宅診断)を行う「さくら事務所」を創業、現会長。不動産購入ノウハウの他、業界・政策提言や社会問題全般にも言及。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。2022年2月に『バブル再び 日経平均株価が4万円を超える日』(小学館)を出版。
引用元: suumo.jp/journal