供給が不足傾向。民泊を始めたい人にとって、今はチャンス?
民間シンクタンクによると、2020年の訪日外国人旅行者数は4000万人を超えるとの試算があり、五輪が開催される8月、観光客が多い11月や12月では宿泊施設不足が指摘されている。
その解消で期待されているのが「民泊」だ。2018年6月には民泊について定めた住宅宿泊事業法が施行。施行から1年以上が経過し、五輪開催に向けて、民泊の供給が増えて盛り上がっていると思いきや、実情は異なるという。
「海外の仲介サイトで違法な民泊物件を掲載できなくなったこともあり、施行前にはピークで6万件程度あったとされる民泊施設は、施行後は約1万件まで落ち込み、その後、一部の規制が厳しい地域(例えば、東京23区)では件数が回復していません。つまり、需要は伸びているにもかかわらず、供給は不足傾向にある地域が存在します。民泊を始めたい人にとって、今はチャンス」と、民泊に詳しい行政書士の石井くるみさんは解説する。
民泊を始めるに当たっての注意点は何だろうか。「まず、民泊は日数制限があります。1年間のうち180日以内しか営業できません。住居専用地域などではさらに厳しい日数制限がある自治体もあるので事前に確認しましょう。多くのマンションでは管理規約で民泊が禁止されているため営業できません。民泊を始める際に最も大事なことは、近隣住民への説明や配慮です。これを怠ると後々トラブルになりかねない」(石井さん)
住宅宿泊事業法では、民泊できる住居や運営でやることなどが定められている。民泊する住居にトイレ、洗面所、キッチン、浴室の4つがあり、きちんと使えること。運営面では、施設の清掃、宿泊者名簿の備え付け、外国人観光旅客に向けた外国語を用いた情報提供などの業務をすることなどが定められている。
今回は、民泊を始めたい人が少しでもイメージが具体的に湧くよう、東京の代々木上原で一戸建て(賃貸)で家族と暮らしながら、新法施行前後で民泊をしている山崎史郎さん(会社員)のお話しを聞きながら、民泊のリアルライフを紹介しよう。
始めた動機は、現地で暮らす新たな旅のスタイルに感動して
「民泊を始めた動機は、2014年にカリフォルニアに一人で旅行した際、民泊を体験したこと。通常のホテルに泊まる旅行では味わえない、現地の暮らしを体験できる新たな旅のスタイルに感動したからです」(山崎さん)
山崎さんは、新法が施行される前の2016年から民泊をしていた。しかし、新法施行の際に住んでいた分譲マンションの管理組合からNGが出てできなくなり、断念。2018年9月に賃貸一戸建てを借りて、今年6月から再開した。一戸建ての間取りは3LDKで、1階に1部屋、2階にLDK、3階に2部屋がある。広さは87平米だ。宿泊客に提供する部屋は1階の部屋と2階のリビングルーム。2階のダイニングとキッチンは共同で利用する。3階は家族のプライベート空間だ。「民泊を始めるのにかかった費用は、宿泊客向けの寝具やタオルなどの購入に充てた数万円程度。大変だったのは、届け出書類の種類が多くて作成も煩雑だったこと。区役所に通いつめました」
民泊は大別して、自らが居住する住宅に宿泊させる「居住型」と、居住しない住居を利用する「不在型」の2種類がある。不在型の場合は消防設備の設置など規制が厳しく、開始の手間や費用はそこそこかかる。一方、居住型の場合は特例措置などをうまく活用すれば、始めるハードルは意外に低いという。
「運営は夫婦で分担しています。宿泊希望者の問い合わせ対応や連絡は英語が得意な私(夫)が行い、チェックイン対応や部屋の清掃などは妻がしています。2人の娘がいますが、チェックイン時に英語で自己紹介したり、時には一緒に食事したりするなど、日本にいながら国際交流できるので楽しんでいます」
稼働率35%程度で、月収は8万~10万円
気になる収入はいくらだろうか。「今年6月から始めて稼働率は35%程度で、月のうち約10日が宿泊しているという状況。月収にして8万~10万円でしょうか。ただ、この稼働率はプライベートの予定を犠牲にせずに出た数字で、今の需要からすればもっと高められると思います。五輪開催期間は宿泊料を10倍にして稼働率100%も十分狙えると思います」(山崎さん)
民泊するうえで気になるのは、宿泊客や近隣住民などとのトラブルだ。一般的な民泊の仲介サイトでは、宿泊予約を受ける方法が2つから選べる。宿泊希望者が申し込めば予約が即成立するパターンと、宿泊希望者が予約依頼後、提供者が確認して了承すれば予約が成立するパターンだ。
「我が家は、後者を採用しています。宿泊ルールを先に読んでもらって了承したお客しか宿泊させないこともあり、大きなトラブルはありません。また居住型の場合、ゴミ出しはホストである私が行い、騒音トラブルがあっても同居しているため、すぐに注意できる。管理の目が届きにくい不在型と異なり、目が行き届く居住型はトラブルは起きにくいと思います」
大変だったのは近隣住民への周知だ。渋谷区の条例では、住居専用地域で民泊を行う際、周辺地域の住民などに対面や書面で事前周知したり、町会などが実施する地域活動に積極的に参加したりするなどの必要がある。「一戸建てを借りたのが2018年9月なので、開始までに9カ月間かかりました。仕事しながらということもあるが、住民を回っての説明や届け出書類の整備に時間を費やしました」(山崎さん)
民泊を専門に行う業者や、住宅を新規購入して取り組む不在型民泊は増加しているが、自ら住む家に宿泊客を泊める居住型は減少傾向にあるという。しかし、その一方で「日本の生活や暮らしに触れたいという外国人観光客にとって、家族が暮らす家に宿泊する居住型民泊のニーズは根強いと感じています。自宅に他人を宿泊させることに抵抗感が少なく、国際交流に興味がある人にとって魅力的」(山崎さん)
エリア限定だが、届け出不要の「イベント民泊」も
ラグビーワールドカップ、東京五輪、大阪万博など国際イベントが目白押しで、イベント開催地の宿泊施設不足が指摘される中、8月1日、観光庁と厚生労働省はイベント開催期間に宿泊施設不足が見込まれる場合、住宅宿泊事業法に基づく届け出をせずに自宅を民泊として活用できる「イベント民泊ガイドライン」を改訂して発表した。
イベント民泊は、自治体が公募している場合に申し込みできる。「ラグビーワールドカップの開催地である熊本県、岩手県釜石市、大阪府東大阪市などの自治体がイベント民泊の実施を予定している。気軽に取り組めるので、興味がある人は自治体に問い合わせてほしい」(観光庁)
イベント民泊でも宿泊料をもらうことができるため、副業として民泊を検討している人のお試しとしてもおすすめだ。東京五輪や大阪万博の開催時にもイベント民泊を公募する可能性は高いので、今後の動向に注目したい。