あなたの住まいは本当に安全?犯罪の1/4は住宅で起こる
近年、新築マンションならオートロックは当たり前、低層の賃貸アパートでもオートロックを備える物件が増えています。さらには玄関錠や窓ガラス、インターホンなども進化し、住宅の防犯性能は年々向上していると言えるでしょう。
事実、2012年度の住宅における犯罪の認知件数は34万413件に対し、2016年度は27万8110件と、減少傾向にあります。しかし犯罪総数に対して住宅で起こった犯罪の割合で見てみると、2012年度は24.2%だったのに対し、2016年度は27.9%。セキュリティは向上しているはずなのに、住宅で犯罪が起こる確率は増加しているのです。
それではなぜ、住宅での犯罪発生率は増えたのでしょうか。次は住宅侵入犯の手口から、住宅セキュリティの落とし穴に迫ります。
住宅セキュリティの過信は禁物!その油断、侵入者は見ています
住宅に侵入した窃盗犯の大半が窓か出入り口から侵入しています。特に一戸建てと3階建て以下の共同住宅では50%以上の犯人が窓から侵入しているのです。ピッキングやサムターン回しといった玄関の解錠対策はしていても、窓からの侵入は対策がおろそかになりがち。ちゃんと戸締りしていれば安心、とはいきません。
近年は簡単には割れない防犯合わせ複層ガラス窓や防犯フィルムなど、防犯対策を施した窓も増えています。また、窓ガラスに穴を開ければ簡単に解錠できるクレセント錠ではなく、鍵や暗証番号で解錠するタイプに変更するなど、住まいの安心を守るためには窓の防犯意識を高める必要がありそうです。
それなら「窓からの侵入を防ぐだけならマンションの上層階に住めばいいのでは?」と思いますよね。しかし4階建て以上の共同住宅で起こった侵入窃盗の1/3が窓からの侵入によるものです。隣接するビルの外階段や雨どい、屋上からバルコニーに侵入するなど、その手口は実にさまざま。油断も隙もあったものではありません。マンションの高層階は一度侵入さえしてしまえば、かえって外から発見されにくいということも、侵入を助長する一因となっているようです。
さらに4階建て以上の共同住宅で最も侵入を許しているのは、エントランスです。オートロックがあるから安心と思っていても、ロックを解除した住民に続いて堂々と侵入する、ドアの外から開けられなくても内側のセンサーを誤作動させるなど、オートロックを破る手口は認知されているだけでも多岐に亘ります。
オートロックや高層階であることを過信して、家の玄関や窓を施錠しないで、ちょっと買い物やゴミ捨てに出た数分の隙、そこを侵入者は逃しません。さらに一つの住戸が侵入を許すと、バルコニー伝いに同じフロアの住戸数軒が同時に侵入される、いわば二次被害を引き起こすのです。
2016年-住宅種別ごとの侵入窃盗の侵入口
2016年-住宅種別ごとの侵入窃盗の侵入手段
※合かぎ:合かぎを使用して施錠を開けるもの。使用した合かぎが窃取、偽造等したものか否かは問わない
※その他の施錠開け:ピッキング、サムターン回し、合かぎ以外で施錠を開けるもの
※ドア錠破り:ドアの隙間にバールなどを差し込み、施錠部を強引にこじ開けるもの
※構成比は小数点以下第2位を四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%とはならない
住まいの防犯最前線!「防犯優良賃貸集合住宅」を知っていますか?
ここまで住宅セキュリティは万全じゃない、という話をしてきましたが、とはいえ住宅の防犯性能が高いに越したことはありません。難易度の高い住宅侵入の過程を楽しむ愉快犯でなければ、侵入しにくい家より、侵入しやすい家を狙うのは当然の心理です。では犯人から狙われにくい住宅とはどんな条件を備えているのでしょうか?「防犯優良賃貸集合住宅認定事業」を手掛ける一般財団法人ベターリビングの岩田英之さん、前田雅輝さんにお話を伺いました。
そもそも「防犯優良賃貸集合住宅」とは?
前田さん 「防犯優良賃貸集合住宅」(以後「防犯優良賃貸」)は、われわれベターリビングと公益財団法人全国防犯協会連合会が共同で設けた防犯に関する基準に適合していることが確認され、登録された賃貸集合住宅で、おおむね4階建て以下の新築の賃貸集合住宅を対象に申請を受け付けています。認定・登録された賃貸集合住宅は、「防犯優良賃貸」であることを示すロゴマークを表示することができます。
「防犯優良賃貸」の認定には、個々の物件を単独で審査する個別認定と、ある程度規格化された住宅商品を対象とするシリーズ認定の2通りの方法を用意しています。個別認定はまだ動きだしていませんが、シリーズ認定については、ミサワホームさん、大東建託さん、レオパレス21さんが既に認定を取得されています。
シリーズ認定では、設計段階で図面から建物の防犯性能を審査するだけでなく、その設計基準をきちんと守れる管理体制が整っているかをチェック。さらに建物が建ってから、敷地形状など物件ごとに異なる個別の要件に則してチェックを行う、二段構えの体制をとっています。
「防犯優良賃貸」の認定基準を教えてください
岩田さん 「防犯優良賃貸」の認定制度においては建物の設備・構造や住戸の部品だけでなく、敷地の中の配置計画についても基準を定めてチェックをしています。主に建築を専門とするベターリビングと防犯を専門とする全国防犯協会連合会が共同で、住宅部品単体での防犯性能ではなく、設置される住宅部品が十全に防犯効果を発揮できるか、建物の構造や敷地の形状、周辺環境など、トータルでの住宅の防犯性能を確認するという点が、「防犯優良賃貸住宅認定制度」の基準における大きな特長と考えています。
前田さん 賃貸集合住宅に関する意識調査において、さまざまな防犯意識が高まっていることが分かっています。しかし賃貸アパートに代表される、多くの賃貸集合住宅で、一般的に建設コストの問題から十分な防犯性能を確保できていないのが実情です。
岩田さん 賃貸ということを考えると、オートロックをはじめとする防犯設備は、オーナーさんにとって過大な投資となってしまいがちです。そのため死角をつくらない、2階や3階のバルコニーに直接乗り込めるような足がかりをつくらないなど、設備投資によらない設えによる犯罪抑止の工夫も拾えるような認定制度の構築をしています。
防犯優良賃貸集合住宅の概要
今後の事業目標や展望を聞かせてください
岩田さん 「防犯優良賃貸」の認定に伴い、オーナーさん、入居者さん双方に対し、防犯意識の啓発も行ってまいります。防犯性能の高い住宅というハードがあっても、例えば戸締り施錠を怠ったり、自転車置き場やごみ置き場が荒れていれば、犯罪を引き寄せてしまいます。管理の仕方、暮らし方に対する防犯意識を促す取り組みを行っていることも、本事業の特徴といえるかもしれません。
前田さん 現在は新築物件に対する認定基準しかありませんが、既存の物件に対する認定はできないか、という問い合わせもあります。既存の住宅に対する防犯性能の向上指針であったり、評価基準をつくることは、今後の課題であると捉えています。
岩田さん 賃貸で住まいを探している方や賃貸経営をされている方、これから賃貸経営を考えている方に本事業を広く認知していただき、「防犯優良賃貸」が普及すれば、犯罪に対する抑止効果も大きくなると思います。さらには住宅全体の防犯性を向上、そして安心安全な社会構築へとつながっていくことを願っています。
どれだけセキュリティが充実した住宅でも、入居者や管理者の防犯意識が緩んでいると、犯罪を呼び込む可能性が高まります。とはいえ防犯を意識した敷地配置や住宅設備があれば、より安心です。賃貸アパートで家賃を抑えたい、でもセキュリティがちょっと不安という人は、今後増えていく可能性がある「防犯優良賃貸住宅」にも注目してみてください。
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