連載名:私のクラシゴト改革
テレワークや副業の普及など働き方の変化により、「暮らし」や「働き方(仕事)」を柔軟に変え、より豊かな生き方を選ぶ人が増えています。職場へのアクセスの良さではなく趣味や社会活動など、自分のやりたいことにあわせて住む場所や仕事を選んだり、時間の使い方を変えたりなど、無理せず自分らしい選択。今私たちはそれを「クラシゴト改革」と名付けました。この連載では、クラシゴト改革の実践者をご紹介します。
育休取得は当然の流れ。ただし、たまに仕事をする余地も残すことに
Web開発などを担当するエンジニアという仕事柄、在宅ワークが可能な土屋さん。フルリモートで働ける企業「キャスター」に転職したのが2年前。偶然にも転職の内定を承諾した翌日に妻の妊娠が判明。新しい職場で育児休暇を取るのは自然な流れだったそう。
「フルリモートをはじめ、もともと自由な働き方を応援している企業。男性の育児休暇も自然な流れでした。”予定日は8月下旬なので9月1日より育児休暇を取りたいんです”と、伝えたら、”おめでとう。了解しました”というリアクションでした」
実際、キャスターでは、自由な働き方を実現することを企業ミッションやビジョンに掲げていることもあり、男性が育児を取ることは特別視されないという。
「育児休暇を取るのは自然なことでした。制度としてあるなら取らないのはもったいないですから」
ただし仕事を100%休みにせず、緊急時には対応するなど、臨時的に仕事をすることも。「とはいえ、ほとんど育休でしたよ。”半育休”という表現もありますが、育休中に仕事をするのは本来推奨されないことですし。僕自身が仕事をしたいと望んだことも大きかったです」
どうして土屋さんは完全に仕事をシャットアウトせず、仕事をする余地を残しておいたのだろうか。
「入社して半年で、仕事が面白くなってきたフェーズだったんですよね。チャットだけでもいいので内部の様子を共有しながら育休とりたかったんです。ずっとベンチャーのエンジニアをしていて、トレンドの流れが早い業界。完全に離れると勘がにぶる恐れもありました」
怒涛の新生児育児、2人が担い手になることで乗り切る
そして2019年8月予定日ぴったりに第一子誕生。9月から11カ月間の育児休暇を取得した。
「育児休暇を妻と同時に取ったのは、オムツ替えもミルクも寝かしつけも最初から夫婦2人で子育てをしたかったから。育休も妻→僕の順番になると、僕が教わる立場になり、妻が育児のメインの担い手になってしまうでしょう。そうしたら、僕が甘えてしまいそう。どちらか仕事で不在でも育児がまわっていけるようにしたかったんです」
とはいえ、最初からすべてがスムーズだったわけではない。最初のうちは、夜中に子どもが泣いてもどうしても起きることができず、夜中の3時間おきのミルクは100%妻担当に。当然、叱られた。
「二人で育児をするんだ! と意気込んでいたけれど、やはり当初はどこかで当事者意識が足りなかったと反省しています」
育児は大変だったが、我が子との時間は宝物に。「毎日、いろいろな成長がみられました。仕事をしていたら、毎日数時間しか触れ合う時間がなかったと思うので、育休を取って良かったと思います」
育児ストレスが仕事をすることで解消されるメリット
育休中の試行錯誤の育児の苦労の中、「仕事がいい気分転換になった」という土屋さん。
「結局仕事が好きなんですよね。自分がずっと関わってきたプロジェクトに思い入れも強かったですし」
土屋さんだけでなく、妻もたまにヘルプで職場に呼ばれることがあったが、むしろ仕事に行ってリフレッシュした顔をして帰ってきたとか。
昨年秋には、子どもを保育園に預け、夫婦ともに仕事復帰。夫婦2人で仕事と育児を両立させる生活がスタート。「育児休暇中も同僚と情報共有していたので、復帰はスムーズ。いわゆる育休明けに感じる”疎外感”とも無縁でした」
仕事を再開してからも、育児も家事も2人で、が大原則。「育児・家事の役割分担も細かく決めず、片方が朝ごはんをつくったから、片方が晩御飯をつくる。片方が寝かしつけをしてるから、片方がお風呂掃除するなど、自然な流れで、負担を分散するようにしています」
そのため、使えるICT(情報通信技術)はフル活用。新生児のころのミルクや睡眠時間はアプリ「ぴよログ」、復帰後の仕事や休みなどお互いのスケジュールはGoogle カレンダー、ちょっとした情報共有はSlackを活用するといった具合だ。
「育児は、母親の私がメイン、夫はサブ。そんな関係にならなくてすんだ」と妻も証言
ここまで、土屋さんの奮闘ぶりについてお話を伺ったが、妻の立場からはどう見えていたのか、土屋さんの妻にもお話を伺った。
「最初から一緒に育児スキルを上げていったので、私が教える手間がなかったのはとてもありがたかったです。もちろん完璧じゃなくて、実は彼、子どもと遊ぶのは苦手なほうだったと思うんですよ。子どもの面倒を見るってテレビを観せることじゃないよって正直思ったこともあります(笑)。でも、今では外遊びは彼のほうが得意。息子と楽しそうです。特に生まれてすぐのときは私が赤ちゃんの世話でいっぱいいっぱいで、夫が家事全般をやってくれたのは助かりました」(妻)
ママ友や友人と話していて、「あ、ウチとは違うな」と思うことはあるだろうか。
「みなさん、パパの帰りが遅く、ほとんど平日には子どもと触れ合えない家庭が多いよう。だから、寝かしつけがママじゃないとだめだったり、ママへの後追いがひどいという話を聞くと、ウチとはずいぶん違うなと思います。子どもが病気のときも当然母親の方が休むものと思われていることも多いですが、ウチは2人で調整しています。そうそう、保育園の抽選のとき父親は夫1人で、周囲は母親ばかりで“完全アウェイだったよ”と聞いたときは笑いました」(妻)
男性のための育休本を出版~後輩パパたちの背中を押したい
確かに土屋さんの勤務先は男性育休を取りやすい雰囲気があり、フルリモートで受け入れられやすかったのも事実だ。恵まれていると感じる人もいるだろう。しかし、自分も育休を取りたいと考えているパパとその予備軍はもっともっと多いはずだと考えた土屋さん。自分自身の育休体験を基にした書籍を、友人と共著で自主出版した。
「もともとエンジニア界隈で技術やマネジメントに関する本を出すのが流行っていて、僕も年に1回のペースで出していました。そんななか、学びの多い育休を、何かの形でアウトプットしたいと考えたんです。自分たち自身が育休を取得して良かったと実感しているから、迷っている方の背中を押したいと思いました」
Twitterで反響になり、取材を受けることも。そのなかで感じたのは、男性の育児休暇の取得が少ない理由のひとつが、単純に「前例がないから」ということ。「こうした実例があるよ、という情報発信を僕がしていくだけで、育児休暇を取るという選択をする人が増え、雇用者側も対応しやすくなることもあるのかなと思っています。育児休暇中に雇用者に支払われるお金は雇用保険から。雇用主側が負担するものではないんです。そのことから勘違いしている人も多いと実感しました」
コロナ禍で男女ともにテレワークをする人が増え、通勤時間に縛られにくくなる中で、男性も育児休暇を取るというケースは今後増えるかもしれない。土屋さん自身は、“半育休=在宅だから育児もしながら仕事できるでしょう”と雇用主側が拡大解釈をすることには警鐘を鳴らしつつ、育児に軸足をおいて、「たまに」仕事をするスタイルが、男女どちらにも、メリットの多い働き方であると実感している。
また、コロナ禍で里帰り出産や親が手伝いにやってくるといったケースが難しく、はじめての育児を女性1人がワンオペで担うのは本当に大変だ。男性の育児休暇取得率の増加に期待したい。