高齢者や外国人が賃貸を借りにくい京都市。不動産会社・長栄の「入居を拒まな…

高齢者や外国人が賃貸を借りにくい京都市。老舗の不動産会社・長栄の「入居を拒まない」取り組みとは

(画像提供/長栄)

国内外から多くの観光客を呼び込む京都のまちに、市内の賃貸管理物件数で多くのシェアを誇る株式会社長栄(以下、長栄)という不動産管理会社があります。長栄は長年にわたり、高齢者や外国人など、賃貸物件への入居が難しい人たちへのサポートを実施してきました。賃貸物件の入居や日々の生活に困難を感じる人を支援するためには、どのような体制や仕組みが必要なのでしょうか。長栄の奥野雅裕さんに話を聞きました。

観光地として国内外から注目を浴びる京都市ならではの住まい事情

奥野さんによれば、さまざまな理由で入居に困難を感じる人がいるなかで、特に京都のまちがもつ特徴から支援が必要だと感じられるのは、高齢者・子育て世帯・外国人の人たちだと言います。

「背景の一つとして、京都市の物件価格の高さが挙げられます。もともと盆地で人が住みやすい条件を満たす土地が限られる中、古くからの建造物や歴史的価値の高い建物も多く、新しい住宅を建てられる場所が、ごくわずかしかありません。提供できる住宅の数が少なければ価格が上がり、それに紐づいて市場が高騰するという悪循環が生じてきました」(奥野さん、以下同)

京都府内の賃料は高止まり状態が続いていて、住宅弱者の住まい探しをより困難にしている(画像提供/長栄)

京都府内の賃料は高止まり状態が続いていて、住宅弱者の住まい探しをより困難にしている(画像提供/長栄)

数が限られた住宅、特に賃貸物件においては、高齢による孤独死などのリスクを不安に思う大家さんが、高齢者の入居を断ることが多々ありました。

また、京都というまちのブランド力により、不動産投資の対象として外国人投資家などからの注目度が高いことも住宅価格を押し上げる要因です。それゆえ、一般の子育て世帯が住宅を購入しづらい点が指摘されています。

そして、京都には大学が多く存在し、留学生の積極的な受け入れに舵を切ったことから、海外からの学生が急激に増えました。ただでさえ賃貸物件数が限られる中、外国人が身寄りのない日本で住居を確保するのは、なかなか難しい状況になっているのです。

「コロナ禍で情勢が変わったのは間違いありませんが、京都市内の住まいの需要は減っていません。売買価格や賃料は高止まりしている状況です」

長栄が主催する外国人留学生に向けた、日本の慣習やルールの説明会。慣れない国での暮らしをスムーズに送るためのサポートを行なっている(画像提供/長栄)

長栄が主催する外国人留学生に向けた、日本の慣習やルールの説明会。慣れない国での暮らしをスムーズに送るためのサポートを行なっている(画像提供/長栄)

市内の不動産会社との連携で住宅弱者の問題に取り組む

このような背景をもとに、「京都の不動産会社には、協力して住宅確保の問題に取り組んで行こうとする会社が多い」と奥野さんは言います。

今回お話を伺った、奥野雅裕さん。賃貸管理部門で12年間経験を積んだ後、顧客サービス部門で日本人、外国人を問わない、入居者に喜ばれるサービスを構築。長期入居者の増加や入居者のニーズに沿ったスキーム、物件の改善に取り組んでいる(画像提供/長栄)

今回お話を伺った、奥野雅裕さん。賃貸管理部門で12年間経験を積んだ後、顧客サービス部門で日本人、外国人を問わない、入居者に喜ばれるサービスを構築。長期入居者の増加や入居者のニーズに沿ったスキーム、物件の改善に取り組んでいる(画像提供/長栄)

京都市は2012年に「すこやか住宅ネット」の愛称で居住支援協議会を立ち上げました。これは、住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)に基づき、住宅確保に配慮が必要な人が円満に民間の賃貸住宅へ入居できる環境を整えるため、行政と民間企業が一体となって取り組んでいく組織です。

京都市は、不動産会社や家主に対して高齢であったり障がいがあったりすることだけを理由に入居を拒否しないよう指導するなど、入居に困難を抱える人を受け入れていくよう説明する機会を積極的に設けています。

「協議会メンバーである不動産会社が中心となって、セキュリティー会社と連携したり、IoT機器を使ったりして、家主が安心して高齢者を受け入れられる環境を作り、高齢者の入居を受け入れてもらうことにも取り組んでいます。当社は協議会立ち上げ当初から関わり、ほかの不動産会社への情報共有や勉強会・セミナーなども行ってきました」

京都市の居住支援協議会、「すこやか住宅ネット」では行政と不動産会社が共に、高齢者や障がい者といった住宅弱者の住まい探しや、暮らしに寄り添う取り組みを行なっている(画像提供/京都市住宅支援協議会)

京都市の居住支援協議会、「すこやか住宅ネット」では行政と不動産会社が共に、高齢者や障がい者といった住宅弱者の住まい探しや、暮らしに寄り添う取り組みを行なっている(画像提供/京都市住宅支援協議会)

「入居を断らない」ことが、大家さんの収益最大化につながる

住宅確保に配慮が必要な人への支援を継続していくには、一時的なものではなく、事業として成り立たなくてはなりません。

「私たちが目指しているのは、家主さんの収益の最大化との両立です。当然のことながら、高齢者、外国人、低所得者だからと言って入居をお断りしていては、家主さんの収益の機会損失になります。入居のハードルが下がれば、入居者さんが増え、家主さんの収益にもつながるというのが、私たちの考えです」

基本的に「入居を希望する人を断らない」のが、長栄のスタンスだそう。だからと言って、やみくもに入居を推し進める訳でありません。

「家賃保証とそのための審査は、不動産の管理・運営をしていく上での肝となる業務です。当社の管理物件に入居される際はほとんどの場合、グループ内の保証会社が対応しています」

必要があれば、入居者と契約前に個別に面談を行って自分たちで審査することも。高齢者の孤独死をはじめ、大家さんにとってリスクの高い人には、「特約」を設けるなど個別対応し、リスクヘッジを図りながら入居を促進するのが長栄のやり方です。

また、高齢者には、セキュリティー会社と連携した見守りサービスの提供、外国人には、各種手続きのサポートやトラブルを避けるための説明会を開催するなどしています。万が一、家賃の滞納が続く場合は、入居者の母国語を話せる外国人スタッフが、事前に取得している母国の連絡先に連絡して対応するなどの解決策を講じています。

高齢者の見守りサービス「ベルヴィシルバーあんしんサポート」。70歳以上の人が単身で入居する際に加入することで、スムーズに入居ができる(画像提供/長栄)

高齢者の見守りサービス「ベルヴィシルバーあんしんサポート」。70歳以上の人が単身で入居する際に加入することで、スムーズに入居ができる(画像提供/長栄)

「入居者ファースト」のサービス会社であることが会社の“幹”

「今後の課題は、住宅確保に配慮が必要な方たちが安心して、長く住んでいただける状況をつくっていくことです」

入居者に長く住んでもらえば収益も安定するので、長栄は入居率を重視しています。現在管理している物件の入居率は、実に96.31%(2022年11月30日時点)と業界平均を大きく上回る状態です。しかし奥野さんは、目先の利益を上げるために、手数料収入さえもらえれば良いと考えている、“不動産屋さん”的な考え方の不動産管理会社が、まだまだ多いと感じているそうです。

「私たちの収益の源泉は入居者さんがお支払いいただく家賃です。入居者さんのために何ができるか、私たちの仕事はサービス業であるという考えが事業の『幹』にあります」

この考えは、長栄の全社員が入社した頃から叩き込まれているといいます。マニュアル通りにはいかないこともたくさんあり、それらにどう対応していくかは日々トレーニングだとも。

「入居者お一人おひとりが本当に困っていることが何なのかを丁寧にうかがって、私たちが解決のためにできることを、しっかりと構築していきたいと考えています」

京都は観光地としての知名度や学校が多いことから外国人も多く、土地や住宅の高騰で、高齢者やひとり親世帯の住宅弱者が多い土地柄。今後も居住支援を長く継続していくには、家主をはじめ周囲の理解と同時に不安を取り除くことが必要です。

そのためには、リスクヘッジをしっかりと行い、万が一のトラブルが起こっても対応できる、仕組みや体制を整えることが大事で、その幹となる心構えがあって初めて居住支援の輪が広がっていくのだと感じました。

●取材協力
株式会社長栄
引用元: suumo.jp/journal