マンションも木造の時代に! 耐震性や遮音など住みごこち満足度98%のお墨…

マンションも木造の時代に! 耐震性や遮音など住みごこち満足度98%のお墨付き 「MOCXION INAGI」東京都稲毛市

(写真撮影/片山貴博)

法律の改正により国土交通省が民間での木材活用を推進したこともあり、2021年から木造ビルが各地に誕生し、今、かつてないほど「木造建築」に注目が集まっています。なかでも、2021 年に完成した「MOCXION INAGI(以下、モクシオン稲城)」(三井ホーム)は木造マンションの幕開けを象徴するような建物です。入居者の実際の住み心地や満足度、マンションの性能、今後どのように普及していくかについて紹介します。

遮音、耐震性もバッチリ! 入居者の98%が住み心地に満足と回答

高層ビルやマンションは珍しいものではありませんが、その多くはコンクリートと鉄骨鉄筋で、構造でいうと、鉄筋コンクリート(RC造)や、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC造)にあたります。だからこそ、記事冒頭のように一見よくある新築マンションが「木造なんだよ」と言われたら、多くの人は驚くのではないでしょうか。

「木造マンション」という新しいカテゴリーを生み出した「モクシオン稲城」一見、よくあるマンションですが、実は「木造」なんです(写真撮影/片山貴博)

「木造マンション」という新しいカテゴリーを生み出した「モクシオン稲城」一見、よくあるマンションですが、実は「木造」なんです(写真撮影/片山貴博)

そんな驚くような木造マンション「モクシオン稲城」が2021年11月、東京都稲城市に完成しました。総戸数は51戸、間取りは2LDK~3LDK、専有面積は50平米~96平米で、シングルからディンクス、子どものいる世帯が暮らしています。1階はRC(鉄筋コンクリート)造で、2~5階に木造枠組壁工法を採用しています。賃料は稲城駅の周辺物件の相場よりも高額な設定でありながらも、見学した人の約7割が入居を申し込みたい(内覧即申し込み含む)と回答し、募集開始後約1カ月で満室になるほどの人気物件です。

エントランスの上部にも木をあしらっています。木ってやっぱりカッコいい(写真撮影/片山貴博)

エントランスの上部にも木をあしらっています。木ってやっぱりカッコいい(写真撮影/片山貴博)

木造の建物というと、音や耐火性、耐震性などが心配という人もいるかもしれませんが、住み心地はどうなのでしょうか。

「入居から4カ月が経過した今春、アンケートをしましたが、入居している47世帯からの回答のうち98%もの人が満足と回答してくださっています」と話すのはこのプロジェクトの推進責任者の依田明史(よだあけし・三井ホーム)さん。では、どのような点に魅力を感じているのでしょうか。

「入居開始が12月だったので、入居者のみなさんは冬をマンションで過ごされたわけですが、断熱性にすぐれ、結露が少なくて快適、天井高や断熱、遮音といった点で高く評価していただいています。耐震性でいうと、3月には東京都で震度4の地震が発生しましたが、その際も揺れてモノが落ちるなどもなく、コンクリートのマンションに住んでいたときと体感はまったく変わらなかったとのコメントも聞きました」(依田さん)

「木造」マンションを推進した依田さん。完成するまでは「木造でしょ」と言われることが多く、悔しい思いをしたことも(写真撮影/片山貴博)

「木造」マンションを推進した依田さん。完成するまでは「木造でしょ」と言われることが多く、悔しい思いをしたことも(写真撮影/片山貴博)

見学のきっかけは、「木造マンションに興味」「脱炭素に貢献」

木造建築物をめぐる法改正などの背景はSUUMOジャーナルでもお伝えしてきましたが、そうはいっても、「一戸建てではない木造建築に住みたい!」と意欲的な人は実はまだごく少数なのではないでしょうか。そもそも、入居者のみなさんは、「木造マンション」のどのあたりに魅力を感じて、見学にいらっしゃったのでしょう。

「見学者のみなさんに来場のきっかけのアンケートをしたのですが、『木造マンションに興味があった』が2位、『木造マンションは地球環境にやさしく脱炭素に貢献』が6位となっていました。実はこの『脱炭素に貢献』というのは、マーケットにおける環境意識の変化を知りたくて手探りで選択肢に入れたのですが、驚くほど上位に来ていました。私たちが思っている以上に、環境意識が高まっているのだと思います」と依田さんは分析します。

回答数89、複数回答可

回答数89、複数回答可

近隣エリアからの見学者は当然のことながら多かったそうですが、東京都品川区や文京区といった都心部からの住み替えもあったといい、いかに木造マンションが注目されていたかがわかります。

「コロナ禍で、多くの企業でテレワークが導入されたことで、郊外で少し広め、質のよい建物に住みたいという需要をくみ取れたと思います。室内の広さを確保したい、地球環境意識の高まりなど、まさに時代の流れにあった建物が完成したと思っています」(依田さん)

エントランスホールには木をふんだんにあしらった和モダンな雰囲気に(写真撮影/片山貴博)

エントランスホールには木をふんだんにあしらった和モダンな雰囲気に(写真撮影/片山貴博)

廊下は建物に内包された「内廊下方式」に。高級感があっていいですよね(写真撮影/片山貴博)

廊下は建物に内包された「内廊下方式」に。高級感があっていいですよね(写真撮影/片山貴博)

部屋番号も木製。こういう遊び心のある造りも心躍ります(写真撮影/片山貴博)

部屋番号も木製。こういう遊び心のある造りも心躍ります(写真撮影/片山貴博)

1階のモデルルーム。木造マンションへの関心は高く、デベロッパー、不動産会社、金融機関など見学希望が絶えないそう(写真撮影/片山貴博)

1階のモデルルーム。木造マンションへの関心は高く、デベロッパー、不動産会社、金融機関など見学希望が絶えないそう(写真撮影/片山貴博)

5階のモデルルーム。最上階ですが表面に木材を使って仕上げています(写真撮影/片山貴博)

5階のモデルルーム。最上階ですが表面に木材を使って仕上げています(写真撮影/片山貴博)

テレワークを想定した部屋。コロナ禍のテレワーク需要に応える結果に(写真撮影/片山貴博)

テレワークを想定した部屋。コロナ禍のテレワーク需要に応える結果に(写真撮影/片山貴博)

RC造(写真左)には柱や梁(はり)のでっぱりがありますが、木造(写真右)は壁面工法のため梁のでっぱりがなく、部屋がより広く、のびやかな空間になるのがおわかりいただけますでしょうか(写真撮影/片山貴博)

RC造(写真左)には柱や梁(はり)のでっぱりがありますが、木造(写真右)は壁面工法のため梁のでっぱりがなく、部屋がより広く、のびやかな空間になるのがおわかりいただけますでしょうか(写真撮影/片山貴博)

写真を見ていただくとわかると思いますが、エントランスや内廊下、キッチン、リビングなど、随所に木が使われていて、一般的な賃貸物件のデザイン・仕様とは一味違います。

建物をつくる、住む、解体する。すべてのステップで環境負荷を軽減

木造建築の強みとして(1)快適で住み心地がよい、(2)断熱性にすぐれる、(3)軽量で施工性にすぐれるが挙げられますが、それだけではありません。

「『木』で建物をつくるということは、S(鉄骨)造、RC(鉄筋コンクリート)造、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造と違い、二酸化炭素を大気中に戻さないわけですから、この建物で炭素を数十年間貯蔵しているわけです。この建物だと約736.4トン、貯蔵している計算になり、これは樹齢35年の杉の木に換算すると約3,000本に相当します。また、建築にかかる二酸化炭素排出量はRC造の半分程度で、将来、解体するときも二酸化炭素の排出量が抑えられるでしょうし、解体後も木材なら再利用も可能です」と依田さん。

コンクリートは二酸化炭素を吸収してくれませんが、木は二酸化炭素を吸収して大きくなります。木材を使っている住まいだとそれだけで「二酸化炭素を貯蔵している」というのは、新しい発見です。また、冒頭に挙げたとおり、(2)木材は断熱性にすぐれているという特性を活かし、省エネルギー集合住宅の証である「ZEH-M oriented(ゼッチ・エム・オリエンテッド)」の認証を取得。住んでいる人から見ると、真夏の冷房、真冬の暖房使用量が少なくて済み、より省エネルギーになるというわけです。よく、“つくる責任、使う責任”といわれますが、トータルで見ても環境性能にすぐれる木造建築は、非常に時代に合った建物といえそうです。

中層建築・大型建築を可能にした高強度耐力壁「MOCX wall」(写真撮影/片山貴博)

中層建築・大型建築を可能にした高強度耐力壁「MOCX wall」(写真撮影/片山貴博)

モデルルームでは生活音を再現し、音の伝わり方を体験できて、遮音性の高さに驚くはず(写真撮影/片山貴博)

モデルルームでは生活音を再現し、音の伝わり方を体験できて、遮音性の高さに驚くはず(写真撮影/片山貴博)

木材に加えて、構造的にも高気密・高断熱とすることで、住宅性能評価の「断熱等性能等級4」「一次エネルギー消費量等級5」を取得(写真撮影/片山貴博)

木材に加えて、構造的にも高気密・高断熱とすることで、住宅性能評価の「断熱等性能等級4」「一次エネルギー消費量等級5」を取得(写真撮影/片山貴博)

課題は部資材や人材確保。「木造マンション」を当たり前の時代に

実は木造マンション、環境負荷が低いだけでなく、工期を短縮できることから、RC造と比較して「建築費が安く、工期も早い」という利点もあったそうですが、昨今のウッドショックの影響と世界情勢による建築費の高騰から「安くて早い」とは断言しにくくなったとのこと。

「住宅建材全般の急激な値上がりが激しいのと、工事を実施する土地の周辺事情により建築費と工期は違ってきます」と依田さん。

もう一つ、今まで木造住宅の普及のネックになってきたのがとポータルサイトでの「ジャンル」です。

「一般的にはアパートよりマンションの方が価値が高いと認識されています。しかし、今まで弊社でどんなによい木造賃貸住宅をつくっても、SUUMOほか、ポータルサイトでは規約によりマンションで募集登録できませんでしたし、同業他社からは『木造アパートはマンションでないため経年すると価値が下がり入居者募集に苦労しますよ』と言われてきました。どんなにいい木造建築をつくっても評価されないのだと、悔しい思いをしてきたんです。今回、一定の要件のもと、木造住宅でも『マンション』として募集できるようになりました。さらに、プロ投資家に向けて、住宅性能評価書と投資判断に重要とされるエンジニアリングレポートを取得することで、木造でもRC(鉄筋コンクリート)造と同等の減価償却期間47年が可能となることを証明し、木造建物に投資する門戸を広げました」(依田さん)

今後の課題は、木材の確保、部資材の調達、施工監理などの人材育成だといいます。
「普及を考えたときの木材や、木造マンションに合った建材、部資材の確保は課題といえるでしょう。あわせて施工してくれる人材は必要不可欠なので、その点を解決していきたいですね。これは私の後輩の役割となると思いますが、RC造と同様に、木造マンションが当たり前の選択肢として世の中に広まっていったら、と願っています」(依田さん)

「同潤会アパート」や「霞が関ビルディング」のように、時代の転換点を象徴するような「建築物」がありますが、後世から振り返ってみたとき、「モクシオン稲城」もそのような存在になるのかもしれません。

●取材協力
モクシオン稲城
引用元: suumo.jp/journal